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サウジアラビア主導のアラブ諸国

寛容と協調のイスラーム主義による平和建設

NPO法人サラーム会会長 小林育三

電子季刊紙 Salaam Quarterly Bulletin, 2023年5月, 春季号より


今年2023年3月10日、サウジアラビア・イラン間の国交回復合意が発表された。サウジとイランの対立構図の中でイラン包囲網を拡大していたと思われるサウジの変化は、サウジとアメリカとのギクシャクした関係の結果ではないか?しかも中国が仲介したこともそのことを証しているのではないか?との見方がある。果たしてそうであろうか?
本稿において、サウジアラビアのサルマン国王・ムハンマド皇太子の押し進める改革と建設の観点から読み解いていきたい。

1.サルマン国王は聖都管理の責任者

カアバ神殿 al-Kaʿba:イスラームにおける最高の聖地とみなされている聖殿(ウィキペディアより)

カアバ神殿 al-Kaʿba:イスラームにおける最高の聖地とみなされている聖殿(ウィキペディアより)

サウジアラビアはイスラーム教徒の2大聖地であるマッカ(メッカ)とマディーナ(メディナ)を擁する国として、聖都を護り巡礼者を受け入れる国として、すべてのイスラーム教徒に受け入れられている。国王は「二つの聖都の守護者」としての責任を第一としている。イスラームの五つの義務的な実践(五行)の一つであるハッジ(大巡礼)は毎年イスラーム暦12月に行われるが、近年巡礼者の数は200万人以上、300万人を越えることもあった。
しかし2015年9月には参加者の圧死事故が発生、2000人を越える死亡者が出た。この悲劇的事件との関与とは別に、テロに関与したアルカーイダを含む47人の死刑を執行した。そこに2011年-12年にサウジに対する反政府抗議活動を主導したシーア派指導者ニムル師が含まれていた。イランは師をシーア派の高位の聖職者としておりイラン最高指導者ハメネイ師はサウジを強く非難。その翌年2016年正月2日、在テヘランのサウジアラビア大使館にイラン人の暴徒が火炎瓶を投げ込み侵入。サウジはこの暴挙に対し直ちにイランとの国交を断絶した。
一方イランは、前年のハッジでの死亡者に含まれるイラン人の実際の人数はサウジ発表の人数より多いとし、事故原因の詳細を求めたがサウジの発表は明確ではなかった、としてその年のハッジの不参加を決定した。
また、2020年のコロナ・パンデミック禍では国外からの巡礼者受け入れを禁止しサウジ在住の1万人のみを認めるという異例の規模縮小となった。

サルマン・ビン・アブドゥルアズィーズ・アル=サウード Salmān binʻAbd alʻAzīzĀlSaʻūd 1935年12月31日、サウジアラビア・リヤド生れ。(ウイキペディアより)

サルマン・ビン・アブドゥルアズィーズ・アル=サウード Salmān binʻAbd alʻAzīzĀlSaʻūd 1935年12月31日、サウジアラビア・リヤド生れ。(ウイキペディアより)

2015年1月23日、第6代アブドゥッラー前国王の崩御に伴い第7代サルマン新国王が即位し首相を兼ねた。新国王はアブドゥッラー前国王の異母弟で国防相を務め、外交政策、石油政策を担当してきた。皇太子にサルマン新国王の実兄の息子ムハンマド・ビン・ナエフ王子56歳を指名し内務大臣兼副首相に、副皇太子に実子のムハンマド・ビン・サルマン王子30歳を指名し国防相兼第二副首相に就任させた。正副皇太子はアブドルアジーズ初代国王の孫にあたり第3世代への王位継承に道筋をつけたと言われる。 しかし新国王として、後継問題とハッジでの事故発生による名誉挽回と、イランとの対立で生じた巡礼受け入れの課題は、引き続く課題となった。

2.サウジアラビアの改革を推進するムハンマド副皇太子

ムハンマド・ビン・サルマン・アル=サウード Mohammad bin Salman Al Saud 1985年8月31日、サウジアラビア・リヤド生れ。(ウイキペディアより)

ムハンマド・ビン・サルマン・アル=サウード Mohammad bin Salman Al Saud 1985年8月31日、サウジアラビア・リヤド生れ。(ウイキペディアより)

サルマン新国王が即位した2015年はISIS「イスラーム国」が猛威をふるうさ中であり、まずISIS(ダーウィッシュ)に対する対備とテロ対策は差し迫った問題だった。また原油価格回復のため減産を求めるロシア、ベネゼラ、イラン、加えてシェールオイル採掘企業の採算に見合う価格を要望するアメリカ等、サウジは世界的減産圧力にさらされていた。
1月27日、サルマン国王とオバマ米大統領との会談ではイランの核保有を容認しない姿勢を強調したものの核協議への批判は避け信頼構築を図った。ムハンマド副皇太子は父親である新国王の任務であった国防相の地位を引き継ぎ、経済開発評議会の議長に就任し、さらに国王特別顧問に信認された。
ムハンマド副皇太子は、湾岸アラブ6か国で構成されるGCC(湾岸協力機構)が2015年2月に決議した「テロに対する資金断絶、支配地域の監視強化、ダーイッシュ(ISISイスラム国)に対する監視強化」を推し進め、12月15日には「イスラーム軍事連合」結成をした。

2015年12月15日、サウジは「中東、アフリカ、アジアの 34 カ国・地域から成る対テロ「イスラーム軍事連合」結成を発表。 軍事連合はサウジが主導し首都リヤドに作戦本部を置く。欧米との連携も視野に入れており、ムハンマド副皇太子(国防相)は「イスラーム世界や国際社会を襲うテロと戦う熱意から生まれた」と述べた。(カイロ時事)

2015年12月15日、サウジは「中東、アフリカ、アジアの34カ国・地域から成る対テロ「イスラーム軍事連合」結成を発表。 軍事連合はサウジが主導し首都リヤドに作戦本部を置く。欧米との連携も視野に入れており、ムハンマド副皇太子(国防相)は「イスラーム世界や国際社会を襲うテロと戦う熱意から生まれた」と述べた。(カイロ時事)

石油価格戦略においては、従来の対米協力的な原油価格調整のための生産調整という役割の枠を超え、「石油価格調整に依拠しない強固な世界的地位を占めるサウジを目指す」と打ち上げた。
2016年9月1日、副皇太子は訪日の場で『ビジョン2030』の策定等によってサウジアラビアの経済・社会を大きく変えることを表明しており、日本もその方向性を支持し実現に協力したいとした。『ビジョン2030』はその年の4月から同副皇太子が陣頭指揮を執り、原油安による財政赤字をサウジ・アラムコ㈱5%未満の上場計画として発表していた。
ムハンマド副皇太子が提唱する財政再建と内政改革について、山内昌之明治大学特任教授は「サウジの変革が中東の進路を決する」との期待を寄せつつも、「2兆ドルの国家ファンドを設立し金融競争力をつける構想、アラムコの株式5%未満を売却し、世界投資力の10%を占める国家ファンドをつくる」との副皇太子の言明には世界を驚かせた、と指摘しつつもワッハーブ派の宗教指導者を説得するのは難事であろう、と心配する論説を産経正論(2016年7月29日)に記している。

3.ムハンマド副皇太子、皇太子(王位継承順位第一位)に昇格

トランプ大統領とサウジアラビアのサルマン国王=20日、リヤド(AFP =時 事)(2017年5月22日世界日報より)

トランプ大統領とサウジアラビアのサルマン国王=20日、リヤド(AFP =時 事)(2017年5月22日世界日報より)

2017年6月21日、サルマン国王は国営通信を通じ息子のムハンマド・ビン・サルマン(31歳)副皇太子兼国防相を王位継承順位第一位の皇太子に昇格させると発表。ムハンマド・ビン・ナエフ皇太子は全職務を解任された。首相はサルマン国王が兼務し、ムハンマド皇太子は副首相に任命された。王位継承を協議する「忠誠委員会」34人中31人が支持したという。
この1か月前5月21日、米トランプ大統領はその初外遊で中東訪問を選び、サウジアラビアの首都リヤドで演説した。トランプ氏は「我々の目標は過激主義を撲滅し、子供たちに希望ある未来をもたらすという目的を共有する諸国の連合形成だ」と述べ、オバマ前大統領の中東政策を大胆に転換した。ニュート・ギングリッチ元下院議長はワシントン・ポスト紙への寄稿で「米大統領がテロとの戦いで中東やアフリカを含む文明世界の団結をこれほど明確にしたことはない」とし、「歴史的演説」だったと評価している。
イスラーム軍事連合を主導してきたサウジ、そしてイランの支援を受けるイェーメンのフーシ派への対抗として軍事介入を進めてきたムハンマド皇太子にとってトランプ大統領の演説は力強い応援演説であった。それだけでなく50に及ぶ国と地域・組織の結束をサウジ主導で成しえたことはサウジにとって大成功であった。 その年、ISIS「イスラーム国」のイラクでの首都とされたモスルは6月に、シリアの首都とされたラッカは10月に陥落した。「イスラーム国」は崩壊した。

4.イスラームの寛容と協調

2015年2月、GCCは「テロに対する資金断絶、支配地域の監視強化、ダーイッシュ(ISIL「イスラム国」)に対する監視強化」を決議し、“イスラームの寛容と協調”によって平和を取り戻すと強調した。
サウジアラビアを盟主として湾岸諸国が一致団結して“イスラームの寛容と協調”を掲げ、イスラーム過激主義と決別し、ダーイッシュとの対決姿勢を明確にしたことはイスラーム主義の中に混在する暴力性を排除する出発になったと思われる。
サウジアラビア国教のワッハーブ派はサラフィー主義から派生し欧米の世俗主義に抗して復古主義的であるものの商業や経済には肯定的で市場経済志向が強い。同じサラフィー主義の流れを汲むムスリム同胞団は社会福祉や貧富の格差対策志向が強い。サラフィー主義に源流を置くこの二つの改革運動はいずれも宗教生活と社会実践において、内面の自由を寛容に容認するか不寛容で強制するかによって穏健な改革か過激な改革かに分かれて行く事となった。
2001年の9・11米同時多発テロの実行犯17人のうち15人がサウジアラビア人であった。彼らは超過激なワッハーブ主義者と言えよう。又、ムスリム同胞団から派生したジハード団はエジプト・サダト大統領を暗殺した。その後、ジハード団をメインに含んで結成されたアル・カーイダ、そしてその延長に領域支配をもってイスラーム帝国を目指したダーイッシュ。過激主義者の誤りは理想を目指す真の改革は神より与えられた人間の心の真なる自由からスタートすることを知らずに独善排他的な暴力主義に陥ったことである。

バーレーンの司法省宗教局局長アルカタン博士

バーレーンの司法省宗教局局長アルカタン博士

カタール駐日大使ビラール閣下

カタール駐日大使ビラール閣下

外務省参与、遠藤茂 GCC大使

外務省参与、遠藤茂 GCC大使












2015年4月GCC会議が東京で3日間開かれた。
会議2日目、バーレーンの司法省宗教局局長アルカタン博士は「それぞれの宗派、思想、考えは平等に扱われる。互いを尊重し敬意を表す。人種、民族の違いを超え人間性の尊重が出発点であることはユネスコ憲章に示されているとおりである」と指摘した。更に「“イスラームの寛容性”はニューヨークの国連でも知られるところとなり、2012年のウィーン会議では“寛容が過激をなくす”との認識で一致した」と語った。更には2015年2月にはメッカにおいて“テロ追放”が決議され、ダーイッシュに対してGCCが積極的な取り組んできた、と報告した。 最後のセッションではカタール駐日大使ビラール閣下が「GCCと日本との共通の価値観として、「寛容と慈悲」を挙げた。それを受けて登壇した遠藤GCC大使は、「”調和””寛容”の精神によってGCCと日本との相互理解は大きく進展してきた」と応えた。

5.イスラーム社会の改革

イスラーム教にキリスト教が経験した宗教改革が必要か、否かの論議はさて置くとして、人間社会が幸福に向って時代と共に変革を求めることは当然である。そのような観点からイスラーム社会、イスラーム国家に変革が求められることも当然である。それをあえて‘欧米文化の強制である’とか‘キリスト教的民主主義の押しつけである’と決めつけ、過剰な拒否反応を示す必要はなかろう。学ぶべきところは謙虚に学び、受け入れるべきところは受入れていけばよいだけのことである。その意味でムハンマド皇太子が推し進める経済・社会改革が超過激で戦闘的なダーイッシュに対して欧米とも協力して“イスラーム軍事連合”を結成し、非暴力を基本とする穏健ムスリムを守り、自国サウジを初めとする穏健湾岸首長国家を護る為には急務であったと言えよう。
そうした上でムハンマド皇太子はサウジ自身の国内改革として、女性の自動車運転解禁、映画館オープンし商業映画の解禁、汚職対策、女性のスタジアムでのスポーツ観戦等々、時代に合わない宗教的規範がもたらす閉塞感からの開放を進めた。

6.経済改革

バグダディ急襲作戦の様子を指揮室で見守るトランプ米大統領(中央)、ペンス副大統領(左から2番目)。米国防総省は2019年10月3日、過激派組織「イスラム国」(IS)の最高指導者アブバクル・バグダディ容疑者が潜伏していた施設を米軍が急襲した。

バグダディ急襲作戦の様子を指揮室で見守るトランプ米大統領(中央)、ペンス副大統領(左から2番目)。米国防総省は 2019年10月30日、過激派組織「イスラム国」(IS)の最高指導者アブバクル・バグダディ容疑者が潜伏していた施設を米軍が急襲した。

 一方、原油(天然ガス)に依存する経済体質を共有する湾岸諸国はいずれも天然資源が有限であることを見越して、石油依存の経済体質から脱却に努めてきた。また民族主義的汎アラブ主義に主導された石油戦略は1979年の第二次オイルショック後に見舞われた世界的不況と非OPECの登場により終息し、需給バランスによる原油価格時代に入っていた。加えて地球温暖化問題が提起され炭酸ガス排出の多い化石燃料からの脱却は地球規模の課題となった。
このような時代要請の中で世界一の産油国(日量1000万バーレル)であるサウジアラビアは原油輸出価格の安定に寄与するエネルギー供給国であり続けるとともに自国の石油依存体質(歳入の70%は石油関連)から脱却する事は焦眉の急なる責務とされた。サルマン国王が若きムハンマド皇太子に国防相のみならず経済開発評議会の議長に任命し経済改革の全責任を担わせたこともうなずかせられる。

サウジアラムコの上場成功

ARAB NEWS HPより

ARAB NEWS HPより

2019年12月11日、サウジアラビア国内石油会社サウジアラムコはサウジ国内で株式を上場した。上場に伴う発行済株式の1.5%の売上高は史上最大の960億リヤル(2.7兆円)となり、ニューヨークで上場した中国の電子商取引最大手アリババを抜く最大額となった。アラムコの上場時の時価総額は1兆8779億ドル(約200兆円)となり米アップル社を上回る世界最大の上場会社となった。アラムコの上場は国家改革の目玉であり、得られた資金で『ビジョン2030』を強く押し進めることが可能となった。

7.国際協調

人口15億人を有するイスラームの中心国家としてのサウジアラビアはイスラーム諸国の盟主として東西二大陣営の枠に入ることを良しとせず第三世界を標榜してきた。それは宗教文化が異なるからである。そこであえて言えばユダヤ・キリスト教徒に対しては経典の民として尊重する気持ちを抱くのに対し、唯物主義、無神論的共産主義に対しては聖戦(ジハード)の対象と見做すからである。
例えば1979年のソ連軍のアフガニスタンへの軍事侵攻に対して、ムスリムは聖戦として立ち上がるべきとの意識が高揚された。そこでソ連軍に対する‘ジハード’の呼びかけに世界から義勇兵が多数集まった。

2022年9月、サウジアラビアのムハンマド・ビン・サルマン皇太子による第43回湾岸協力会議(GCC)サミットで開会の挨拶。(スクリーングラブ)

2022年9月、サウジアラビアのムハンマド・ビン・サルマン皇太子による第43回湾岸協力会議(GCC)サミットで開会の挨拶。(スクリーングラブ)

昨年2月24日ロシアがウクライナに軍事侵攻し、今も戦争が続いている。このロシア・ウクライナ紛争に対しイスラーム諸国はどう視ているだろうか。2022年9月に開かれた第43回GCC Summitの席上、ムハンマド皇太子は「国際法の原則と国連憲章、主権の尊重に基づく国際システムの維持、国家の領土保全と政治的独立、内政への不干渉及び武力の不使用」が我々のスタンスだ、と語っている。サウジアラビアはイスラーム諸国の盟主として第二次大戦後国連を中心として築き上げてきた国際秩序、法に基づく支配、力による現状変更を認めない、と言う民主主義の基本的価値観に賛同し、国際協調路線を明確にしている。
イランとの関係においてもこの基本的スタンスが守られるならばあえてイェメンでの代理戦争をイランと続ける必要は無いとの考えだ。イスラーム軍事連合もダーイッシュへの対備、テロ撲滅を主目的としておりシーア派やイランを敵視する事ではない。国連特使によってイェーメンでの政治解決をイランも支持すれば、2016年以来のイランとの国交断絶は解消されるのである。
そのような水面下の動きの中で2023年3月10日、サウジアラビアとイランは国交を再開した。その合意を仲介した国が中国であったため、世界は様々な憶測を展開している。しかし取り立てて大きな出来事ではない。既に国交回復の下地は整っていたからだ。
そこで何故中国が仲介するようになったのか?イランと国交再開の仲介を今尚イランと国交を回復できていないアメリカに頼むことは不可能だからである。安倍首相が総理として生きておられたら日本に仲介を頼む可能性もあったと思われる。しかし安倍首相亡き後日本に頼れる人材は見当たらなかったと思われる。そこで中国の仲介を受け入れる事になったと思われる。中国習近平氏にとっては棚ぼた的好機となったと言えるのではいだろうか。サウジと中国との戦略的パートナーシップは経済面に重点が置かれているだけで宗教面、軍事面でのより深いコミットに進むとは思われない。

写真は中国習近平国家主席を出迎えるムハンマド皇太子。(2022年12月8日、NIPPON.COM 2023年1月25日HPより)

写真は中国習近平国家主席を出迎えるムハンマド皇太子。(2022年12月8日、NIPPON.COM 2023年1月25日HPより)



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脱石油政策の成功は中東平和に繋がる

トランプ新大統領はディール(取引)するビジネスマンというイメージが前面に押し出されてきた。そのため軍事・外交までディールとして取り扱われるのではないか、と危惧されている。しかし安倍首相との首脳会談では深い人間関係の構築に努力し、日本の軍事・外交に予想以上の理解と評価を示した。そしてアジア外交に対しても無難な滑り出しをなすことができたみなされる。

中東においてはどうであろうか。中東アラブ穏健諸国は、中東戦略に対して及び腰であったオバマ前大統領よりもトランプ大統領の方に期待を寄せている。オバマ前大統領より遙かにイスラエルよりだと思われるトランプ氏に対してである。

日本は日米同盟基軸の下イスラエルと軍事外交上友好関係の立場にあり、同時に原油輸入に依存して産業発展をなしてきたという立場は中東において2つの焦点を持っていたと見なすことができる。したがって日本の平和発展と、イスラエルとパレスチナ・アラブ諸国の平和共存とは一衣帯水の関係にあるといっても過言ではない。第一次オイルショックはその実例であった。つまりパレスチナ紛争解決や、ペルシャ湾危機回避は遠い中東の話ではないのである。

3月中旬、サウジアラビアのサルマン国王は4日間にわたり日本に滞在した。アラブ湾岸諸国を代表するサルマン国王の訪日を「脱石油政策」のためとすることは適切ではない。サウジ・湾岸諸国のお家の事情がそうであることは事実だが、経済格差を是正する政治的課題とその格差を温床に王制打倒を計るアルカイダ、IS等の過激派対策、さらにはイェメンの武闘反政府組織であるフーシ派とそれを支援するイラン問題があることを知らなければならない。イスラエルの中道右派といわれるネタニヤフ首相は中東和平問題解決に対して穏健アラブ諸国との協力もあり得ると語った。

日本は中東における2焦点外交のパラダイムから、一焦点外交への移行を模索し、穏健アラブ諸国の代表であるサルマン・サウジアラビア国王の期待に責任感を持った次元の高い政策を打ち出していくことが求められているのではないだろうか。

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