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真の平和を希求するクウェート

NPO法人サラーム会会長 小林育三

電子季刊紙 Salaam Quarterly Bulletin, 2024年8月, 夏季号より


2023年12月16日、即位されたミシュアル・アルアハマド・アッサバーハ第17代新首長 (日本クェイト協会報245号から)

2023年12月16日、即位されたミシュアル・アルアハマド・アッサバーハ第17代新首長 (日本クェイト協会報245号から)

昨年2023年12月16日、クウェート国はナウワーフ・アルアハマド・アルジャービル・アッサバーハ前首長の崩御に伴い、同日速やかにミシュアル・アルアハマド・アッサバーハ第17代新首長が即位し、12月20日には議会で宣誓と就任演説が行われた。
新首長は2年前から事実上の最高権力者として実務を担っていたことから、新首長の就任によってクウェートの政治方針が大きく変ることはないだろう、と予想される。
一方、湾岸戦争から33年を経過したクウェートではあるがイラクとは国境を接しておりイランとはペルシャ湾を隔てての隣国に位置している。中東平和を主導する湾岸諸国の中で果たす役割は小さくない。新首長を迎えたクウェートに期待したい。

国内安定あっての対外協調

ミシュアル新首長はナウワーフ前首長同様、国内問題に精通した穏健かつ清廉な人物として知られている。クウェートは中東湾岸諸国の中で最初に民主的な議会制度を導入した国である。行政権を持つ首長、内閣及び各省大臣と議会との協調・対立関係は常に生じてきた。したがって近年にサウジアラビアやUAE(アラブ首長国連邦)で進められてきたような中央集権的な政治・経済改革を断行することはできにくい体制と言える。ミシュアル新首長は就任演説で「国民の要望に応えていく重要性」を語り、主権在民の国家体制を強調した。
2030年までの国内安定は首長自身が責任を持つ、との宣言ではないかと感じ取れる。

新皇太子にシェイク・サバーハ・ハーレド・アル・サバーハ殿下を指名

1995年から1998年まで駐サウジアラビア・クウェート大使およびイスラム協力機構常駐代表を務めたシェイク・サバーハ・ハーレド殿下。(ファイル/KUNA)=Arab ニュース2024.6.2

1995年から1998年まで駐サウジアラビア・クウェート大使およびイスラム協力機構常駐代表を務めたシェイク・サバーハ・ハーレド殿下。(ファイル/KUNA)=Arab ニュース2024.6.2

ミシュアル新首長は今年6月2日、シェイク・サバーハ・ハーレド・アル・サバーハ殿下を皇太子に指名した。
クウェートはこれまで新首長就任から短い期間に皇太子の指名がなされてきた。憲法上指名まで1年間の猶予があるとはいえ6か月空位後の指名は遅いと言える。指名をめぐって議論が紛糾していたとされる。
サバーハ・ハーレド皇太子は1953年生まれ71歳。若い世代への交代、あるいは新首長の息子が後継として指名されるのではないか、との憶測が出る中で若いとは言えない指名であった。
サバーハ・ハーレド皇太子はクウェート大学卒業後外交官として外務省に入省し、1982-89年まで国連クウェート政府代表部に所属し1995-98年は駐サウジアラビア・クウェート大使としてイスラム協力機構代表を務めていた。その後2011-19年まで外務大臣を務めた外交の第一人者である。その直後首相を2年間務め上げた経験を持つ人物である。
ミシュアル首長はサウジアラビア、UAEの若き世代による政治・経済・社会の革新的発展を高く評価する首長として知られている。しかし首長は、平和の基礎は首長家(ローヤルファミリー)にあるとし、そこでの権力闘争が生じないように、かつ改革を希求する国民の願いを吸収できるよう熟慮したと思われる。そのうえで、クウェートの変革と発展へと移行する体制づくりのためは湾岸諸国の変容と国際社会の動向をよく知る、新皇太子に期待を寄せたのではないか。

2025大阪万博に格別の意欲で臨む「クウェート・パビリオン」

開催概要 | EXPO 2025 大阪・関西万博公式Webサイト

開催概要 | EXPO 2025 大阪・関西万博公式Webサイト

2025.4.13開催予定の大阪・関西万博。開催まで8か月と迫る中、資材価格の高騰(円安により海外からの資材輸入価格の高騰が原因)を背景に、参加表明している161か国・地域の海外パビリオンで自前で建設する「タイプA」の遅れが目立っている。

そんな中、クウェートは3月5日に都内千代田区にあるペニンシュラホテルで「パビリオン概要」発表会を開催した。
歓迎に立ったサーミー・ガッサーブ・アッザマーナーン駐日クウェート大使は日本語で「こんにちわ」と語りかけ、「1961年に日本との外交関係を結んで以来、日本とクウェートは貿易、人道、平和、と包括的関係を強化してきました。今回の万博ではクウェートの文化遺産を紹介し、エネルギー、工業、教育、科学、全般にわたっての友好関係を深めて行きたい」と語り、万博を通しての両国関係の強化に強い意欲を示した。

クウェート館デザインの発表

ブリーフィング後メディアの質問に答えるMedia Briefing-Q&A

ブリーフィング後メディアの質問に答えるMedia Briefing-Q&A

続いて企画・開発最高評議会事務局長のカリード・マハディー博士(Dr.Khaled Mahdi)は「1970年の大阪万博ではクウェートの近代化を表現しました。2025年の大坂万博では、3,500㎡という最大限の敷地を確保して『先見の明かり』をテーマに、クウェートの過去・現在・未来を表現します。中心核は『人』です。
砂漠の夜明け:真珠のドームをイメージした中央ドームのスペースには、砂漠で星空を見上げながら休息する風景を再現します。
現在のクウェート:人口と自然の共生
未来のクウェート:2035年の新しいクウェートをAIを活用し作成しました。人間中心の社会をデザインし、真のクウェートを希求しています」と説明した。

パビリオン模型の披露

パビリオン模型の披露

最後に披露されたパビリオンの模型は、V字型に翼を広げる鳥(クウェートの国章は鷹)をイメージするデザイン。パビリオンの中だけでなく万博の会場に建ち並ぶパビリオンの中でユニークな美しい建築物として注目を浴びることだろう。

今年2024年はクウェート独立63周年、湾岸戦争によるイラク侵略からの解放33年目にあたる。大阪・関西EXPO2025のクウェート・パビリオンは平和建設に向かって飛び立つクウェート国家と国民の気持ちを表わす魅力ある建築作品として完成することを期待したい。

中東に広がるeスポーツ

ジャーナリスト 佐野富成

「オリンピックeスポーツゲームズ」2025年サウジアラビアで開催決定

プラスデジタルホームページより白書2022

プラスデジタルホームページより白書2022

国際オリンピック委員会(IOC)は7月23日にIOC総会において「オリンピックeスポーツゲームズ」の開催を決定した。第1回を2025年サウジアラビアで開催することを決定した。なお同大会は2年ごとに開催する予定だという。
開催にあたり、JeSU(日本eスポーツ連合)は関係団体と連携し、出場する日本代表選手のコンディショニングや研修をサポートすると発表した。

「オリンピックeスポーツゲームズ」として独立開催

出典:一般社団法人日本 e スポーツ連合/角川アスキー総合研究所「日本eスポーツ白書2022」

出典:一般社団法人日本 e スポーツ連合/角川アスキー総合研究所「日本eスポーツ白書2022」

これまでリアル五輪とeスポーツを同時期、または五輪種目として開催する形を模索してきた。しかしリアルスポーツとの同時開催よりもIOCの冠を掲げた独立した大会として開催した方がより独自性が出せると考えられた。また以前からリアルとeスポーツを分けた方がすっきりし、納得した形での開催となりより望ましいという声があった。
結局、独立した大会としたのは、世界のeスポーツ市場が確実に成長しているということがあるからといえる。
米Statista社が公開しているデータによれば、世界のeスポーツ市場規模は、2022年は14.5億米ドル(1ドル120円換算で1740億円)、23年は17.2億米ドル(1ドル120円換算で2064億円)、そして30年には67.5億米ドル(1ドル120円換算で8100億円)に成長すると予測され、その年平均成長率は21.5%にも上るとされる。
ちなみにJeSU(一般社団法人日本 e スポーツ連合)による昨年12月の発表によると、2022年の日本eスポーツ市場規模は125億円に到達(前年比127%)、2025年には210億円を超えると推定されている。

サウジアラビア開催決定の背景

ところで、なぜ、サウジアラビアで開催することになったのか?eスポーツに関してその市場規模は、米国を中心とした地域と欧州地域が大きい。そこに市場規模だけでない要素が考えられる。それはサウジアラビアを初めとする湾岸諸国の平均年齢が27歳と若く、若年層がインターネットやゲーム技術へのアクセスを増加させているからだ。手頃な価格のゲーム機やパソコンの普及により、アラブの若者が競技ゲームにアクセスできるようになり、eスポーツへの関心を高める原動力となっている。
サウジの若きムハンマド皇太子はゲーム好きであるとのうわさがあることもさることながら、経済の多角化と文化発展の促進を目的として、ビジョン2030を掲げ市民生活の質の向上、文化事業、エンターテイメントの充実を目指し、その一翼をeスポーツが担っている。国家的なプロジェクトと共にサウジアラビア政府公共投資基金(FIF)が100%出資会社Savvy Games Groupを設立し基盤を整えてきた。
国内の若者、しかも男女を越えて惹きつけるeスポーツへの投資は国内の社会経済のイノベーションと合致するとみることができる。世界大会を開催できる会場建設、それに伴うインフラ整備、などは莫大な資金力を投入できるのみならず、世界からの観客を迎え入れることはFIFAワールドカップカタールサッカー大会よりはるかに大きな世界大会になる可能性がある。イスラム国家としての閉ざされた国家イメージを大きく世界に開くことにもなる。

IOCのトーマス・バッハ会長は「サウジアラビアのNOCと提携することで、特にプログラム上のゲームタイトル、ジェンダー平等の促進、eスポーツを取り入れている若者との関わりなど、オリンピックの価値が尊重されることも保証しました。」と語っている。
一方、サウジアラビア・オリンピック・パラリンピック委員会会長でスポーツ大臣のアブドゥルアズィーズ・ビン・トゥルキ・アル・ファイサル王子は、「サウジアラビアは、IOCと提携し、国際スポーツの全く新しい時代を迎えるという見通しに非常に興奮しています。私たちは、オリンピックに参加することは、アスリートが達成できる最高の名誉の一つであると信じています。そして、世界中の文字通り何百万人ものアスリートに新たな夢と新たな野望を抱かせる可能性を秘めたオリンピックの歴史の新たな章の執筆を支援できることを誇りに思います。(中略)私たちはオリンピックの価値を尊重し、称賛する特別なイベントの開催にコミットしています。」と述べている。

 © サウジオリンピック・パラリンピック委員会
(2024 年7 月12 日IOC Press Release より抜粋)


世界的なスポーツリーグ運営会社ESLの買収を手始めにeスポーツプラットフォーム FACEITを買収、さらに有力ゲーム企業への投資も行っている。任天堂、カプコン、コーエーテクモ、ネクソン、エトロニック・アーツの大株主であり、SNKに至っては株式の96.18%がサウジの関連企業が株主となっている。こうした下地が整っていて、政府のおおきな後押しがあり、大会運営にあたって盤石な基盤が整ったことになる。
ちなみにサウジのeスポーツ人口は2100万人(総人口3641万人、2022年現在)ほどと言われている。現在サウジでは8月25日まで「eスポーツ・ワールドカップ」を開催中だ。世界各国から500チーム以上が参加し、21種類のゲームタイトルで競技され、賞金総額6000万ドル以上といわれる。
「史上初の」eスポーツオリンピックは、今まで以上にグローバル化の波が乗る可能性を秘めており、人種、人権、宗教、健常者、身障者といったものを飲み込んでいきそうな勢いを持っている。

クウェートで日本アニメイベント

今年秋11月7~9日までサウジアラビアの隣国クウェートで、2011年の東日本大震災の復興支援のために開催したeスポーツ大会を前身に、2014年に装いを新たにGameExpoを開催してから今年10年目を迎えGX2024を開催する。このほど大会を運営する実行委員長ヨセフ・アルロウミー氏が来日しており、話を聞くことができた。

FIKRA

3・11東日本大震災後日本支援のためにクウェートで開かれたe-スポーツ大会のポスター

3・11東日本大震災後日本支援のためにクウェートで開かれたe-スポーツ大会のポスター

ヨセフ氏はFikra(フィクラ)をクウェートで2010年に設立。Fikraとはアラビア語で「アイデア」を意味する。クウェートを本拠地とし、クウェートや中東における創造的な活動の促進、特にゲーム産業をターゲットにしている。クウェートが将来ゲーム産業の中心地として国際的に認知されることを目指している。
東日本大震災の時には日本のためにチャリティーイベントを開いたという。1000人以上の人が支援のために参加してくれたとのこと。駐クウェート日本大使をはじめ大使館の方々も支援くださったとのことだった。
Fikraは中東におけるゲームとeスポーツ分野に大きな変化をもたらす土台を築いた。クウェートのゲーム人口は爆発的に増え、発展のための呼び水となっており、Fikraは将来に向けて最前線に位置している。

Fikraのサクセスストーリー(実績)

・中東初のアラビア語ライブ解説付き大規模ライブストリーミングゲームイベントを開催
・中東のゲームシーンにスポットライトを当てるため、世界的に著名なゲーム関係者を中東に招聘
・中東全域のゲームイベント登録のための永続的なウェブプラットフォームを構築
・中東初のファイナルファンタジー公式オーケストラを開催
・国際的に有名なスタジオの新作ゲームの独占デモプレゼンテーションの権利を獲得
・中東初の大規模な格闘ゲーム・トーナメントを開催
・クウェート初のゲームエキスポを開催

今回の訪日目的:
11月9-11日開催の2024GameExpoの準備のため

右端はヨセフ氏、左端が筆者

右端はヨセフ氏、左端が筆者

ヨセフ氏は、京都や東京など日本のゲーム企業の関係者とコンタクトを取った。メタルギアソリッドシリーズを手掛けた小島秀夫氏などそうそうたるゲームクリエイターたちだ。在クウェートの日本大使館は協力的だが、クウェート政府自体の協力を取り付けることは簡単ではない様だ。
来年サウジでオリンピックを冠したeスポーツがいったん始まると大きなうねりとなってアラビア半島は変化していくのはないか、さらに中東全域と広がっていく可能性がある。ヨセフ氏はeスポーツのほかにも、漫画やアニメといった日本のサブカルチャーの良さの紹介も続けていくという。

[クエートのアルコール事情こぼれ話]

イスラム諸国では豚肉だけでなくアルコールも禁止されていると聞いていたので、飲酒事情について尋ねてみた。すると面白い回答があったので紹介します。(情報の信頼性は保証しないことをあらかじめお断りしておきます。)
簡単に言えば、クエートでは飲酒は厳しくないが、アルコールの売買は禁じられているということです。ですから、機内食でアルコールが出てきた場合、飲んでもいいそうです。それなら、入国の際アルコールを持ってきてもいいのですか?と尋ねたところ、それは駄目とのことでした。
少しは参考になりますか?
真に受けて油断して飲酒すると、逮捕されるかもしれないので、ご注意ください。(T)


過去の記事

2024年5月1日 クウェートとの絆を結んだ三陸鉄道
2024年2月1日 過激イスラムと左派思想が煽る反ユダヤ主義
2023年10月18日 「ハマス」の大規模テロは、パレスチナのためにならない
2023年8月1日 英国のTPP加入承認とシックス・アイズ
2023年5月1日 サウジアラビア主導のアラブ諸国
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2022年11月1日 平和を希求する湾岸諸国とイスラエル
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2020年8月11日 中東への本格的平和外交に 船出すべき日本(下)
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使用済核燃料問題解決方法としてトリウム熔融塩炉に社会的スポットライトを!

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最近、世界中で次世代革新炉と呼ばれる小型原子炉の開発が進んでいる。昨年、ビル・ゲーツが共同設立したテラパワー社が進める原子力プロジェクトに三菱重工業と日本原子力研究機構が参画したことはニュースにもなった。

次世代革新炉の一つに熔融塩炉がある。米国オークリッジでは実験用溶融炉が1965-69年まで順調に運転した実績を持っている技術である。熔融塩炉という液体燃料が原子炉の中を流れるので、爆発することは原理的に考えにくい構造になっている。ウランに替えてトリウムを使うトリウム熔融塩炉は、単にプルトニウムを消滅するだけでなく、軽水炉よりも安全で低コストな発電を可能にする。実現すれば中間貯蔵問題を解決でき、安価なエネルギーを大量に安定供給してくれるという代物である。

将来的に核融合が実用化されるとしても、それまでは、使用済核燃料問題を解決しながら、安全、低コスト、安定した電力供給できる小型原子力発電の可能性を持つトリウム熔融塩炉に、一日も早く社会のスポットライトが当たることを願っている。  (季刊サラームNo36 2021年2月春季「第二の原子力時代の門を開くトリウム熔融塩炉」参照)

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