202111

自由で開かれたインド太平洋構想とアフガン問題

NPO法人サラーム会 会長 小林育三

電子季刊紙 Salaam Quarterly Bulletin, 2021年11月, 冬季号より

FOIP(自由で開かれたインド・太平洋構想)の実現に向けた日本の具体的な取組例

出典:外務省HP 外交政策2021年3月

出典:外務省HP 外交政策2021年3月

環太平洋連携協定(TPP)は2013年3月15日、第二次安倍内閣成立後安倍総理自身の決断により参加表明がなされた。この決断は地球規模の文明潮流にかなうものであり、日本は天運に乗ることができた。安倍総理が果敢に切り拓いたこの天運は‘インド・太平洋構想’としてインド、アラビア海、アフリカ東海岸までに及んでいる。自由、共存・共栄を旨とする互恵的な繁栄、法の支配に基づく平和の希求を詠った日本発のこの構想は今や世界的に受け入れられた。
自国の経済的・政治的利益を優先せずに相手の立場を尊重する互恵的姿勢を持ち続けた安倍政権の7年8ヶ月間、日本は変らない平和国家として世界の信頼と評価を獲得したと言えよう。  しかし公海における航行には気象変動、地震や火山活動による地殻変動、地理上のチョークポイント等自然的原因によって起る海難事故がつきものである。くわえて海賊、テロ、航行周辺地域の政治情勢や軍事・外交・経済状況による人為的危機もある。 更に中国の力による法の支配は公海における航行の安全保障上の脅威として浮上した。そしてアメリカ軍のアフガン撤収によって生じたタリバン暫定政権の問題。アフガンがテロの温床にならないために果すべき日本の役割は?平和に対する日本への期待と果すべき‘積極的’責任は益々大きくなると思われる。


一次エネルギー国内供給の推移

(経済産業省資源エネルギー庁「エネルギー白書2020」)

(経済産業省資源エネルギー庁「エネルギー白書2020」)

1973年と1987年を比較すると、原油輸入量は日量500万バーレルから320万バーレルに減少し、中東依存度について見れば77.5%から67.9%に減少しています。次に、左記のグラフによれば、1973年度には一次エネルギー国内供給の75.5%を石油に依存していた状況から、石油に代わるエネルギーとして、原子力、天然ガス、石炭が促進され、さらに新エネルギーの開発を加速させたことが分かります。その結果、一次エネルギー国内供給に占める石油の割合は、2010年度には40.3%と大幅に低下する事が出来ています。(季刊サラーム第38号「中東平和と日本」片倉邦雄インタビュー談頁4より抜粋)

原油輸入と日本のエネルギー

日本は1960年以来第一次エネルギーを中東からの原油輸入に依存してきた。その原油供給により日本の産業は支えられてきた。一次エネルギーの供給量は日の丸石油と呼ばれたアラビア石油による自主開発油田からの安価な原油供給により数年で水力発電より石油による火力発電の方が多くなった。原油の安定供給は原油による火力発電を電源として産業界全体の発展に寄与した。1973年と1979年に見舞われたオイルショックも原油輸入の中東地域依存の割合を減少させ、且つ石油の占める第一次エネルギーの供給量の割合を減らすことによって克服してきた。
1980年代になってから温暖化を防ぐためのCO2削減が世界的な課題となり、クリーンエネルギーによる電源獲得が目指され、原子力発電と自然エネルギーによる発電が求められた。
産業発展に比例し電力需要は増大し、その電力需要をカバーするために原子力発電は順調に拡大した。2011年3・11東日本大震災での福島第一原発事故が起る迄のベース電源に占める原子力発電の割合は31%に達していた。(ちなみに石油火力発電8.3%、LNG発電27.2%、水力発電8.7%、新エネルギー発電1.2%)

原発零は根拠無く、家庭電気料の値上げと産業競争力の低下をもたらす

それが原発事故後の原発零の大合唱で、国民の原発アレルギーと相まって限りなく零に向かったのは10年前の総選挙時の状況だった。しかし選挙結果、国民は原発零を選択しなかった。‘原発零は根拠無く、家庭電気料値上げと産業競争力の低下をもたらす’ことを覚ったからだ。今日それから10年が経過し、3年ごとのエネルギー基本計画が閣議決定されようとしている。安全性が高くコストパフォーマンスの良い小型原子力発電(トリウム原発を含め)を俎上にいれ腰を据えた原発政策を打ち出すべきだ。(下表参照)

季刊サラーム36号2021年2月春号「第二の原子力時代の門を開くトリウム溶融塩炉」(株)トリウムテックソリューション高橋裕寄稿記事より

変らぬ中東原油の重要度

下記「日本の化石燃料輸入先(2019年)をご覧いただきたい。この表は日本のエネルギー政策においてCO2削減の観点から重要となるに三つの化石燃料の輸入先を示す円グラフだ。ざっくり言えば石炭とLNGはアジアからの輸入でまかなえるが、石油については中東以外の国からの輸入で賄うことは不可能であることを示している。したがってエネルギー政策の基幹を支える原油は中東原油でありその重要度は変らない。そして中東から日本に至るインド・太平洋航行の安全は引き続き重要である。

日本の化石燃料輸入先(2019年)

出典:経済産業省資源エネルギー庁、日本のエネルギー2020

出典:経済産業省資源エネルギー庁、日本のエネルギー2020

アメリカ軍のアフガン撤収により日本の責任が増大した‘自由で開かれたインド太平洋’構想

自衛隊インド洋派遣:2001年から2010年1月15日まで行われた、海上自衛隊の補給艦と護衛艦の派遣。時限立法テロ対策特別措置法に基づく、会場警備活動とインド洋での給油活動。(写真は2009年7月19日毎日新聞)

自衛隊インド洋派遣:2001年から2010年1月15日まで行われた、海上自衛隊の補給艦と護衛艦の派遣。時限立法テロ対策特別措置法に基づく、会場警備活動とインド洋での給油活動。(写真は2009年7月19日毎日新聞)

アメリカ軍の撤収を機にタリバンが旧政府に攻勢を掛けカブールを制圧したとのニュースを目にしたとき、最初に思い出した事は日本のインド洋上での給油活動だった。
タリバン政権の復活により再びイスラム過激派のテロ活動がインド洋、アラビア海へ拡がり海賊行為の増加を招くことになるのではないか?との危惧からである。もちろんそのような危惧は杞憂であって欲しい。
20年の歳月の経過の中でアル・カーイダやイスラム過激派組織、ISIS「イスラム国」は大きく掃討され、聖戦主義者に対するムスリムの抱く英雄熱も冷め、イスラム主義者の煽る反米感情へのシンパシーは低減の一途をたどってきた。したがって20年前に逆戻りする事は無いし、世界のアフガンへの支援が無駄であったと言うこともない。しかし投入した努力がより良い結果として実ることを願う心はどの国も同じであるならば、日本も同じである。

会談に臨む中国の王毅外相(右)とイスラム主義組織タリバンのバラダル幹部=7月28日、天津(ロイター時事)

世界日報2021 年10 月2 日

このように振り返るとき、日本は日本発の「‘自由で開かれたインド太平洋’構想を益々積極的に先頭切って推進することを世界に向って表明する」ことが肝心だ。有言実行は世界を相手に必須不可欠の姿勢である。のみならず‘力による現状変更’を目論む中国に対する抑止力となる。何故なら一帯一路を掲げる中国の経済外交に対し疑問符を投げかける国が少なからず生じ始めただけでなく、計画に合意した国でも懸念を抱いている国は少なくないからだ。アフガニスタンにも一帯一路への誘いは始まっており、政権資金の不足にあえぐタリバンにとって中国からの資金援助は魅力となっているに違いない。
日本は「タリバン政権がハッキリとアル・カーイダとIS-Kと決別する」との約束の上で資金援助を行うべきだ。人道の名の下に無駄金を流すような事は税金の無駄遣いとなる。それは国際社会と協力・協働して進めて行けば可能であろう。いずれにしても日本は資金援助やシーレーンの安全保障に関し一歩も二歩も踏み込んだ平和維持活動を行うべきだ。

自由で開かれたインド太平洋の基本的な考え方の概要資料より-出典:外務省HP

自由で開かれたインド太平洋の基本的な考え方の概要資料より-出典:外務省HP


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使用済核燃料問題解決方法としてトリウム熔融塩炉に社会的スポットライトを!

8月18日、山口県熊毛郡上関の西町長は、町として使用済核燃料中間貯蔵施設の建設に向けた調査を受け入れる考えを表明した。原子力アレルギーが強い我が国にあって、町の財政事情や経済効果を考えた上での判断とはいえ勇断だと感じる。

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最近、世界中で次世代革新炉と呼ばれる小型原子炉の開発が進んでいる。昨年、ビル・ゲーツが共同設立したテラパワー社が進める原子力プロジェクトに三菱重工業と日本原子力研究機構が参画したことはニュースにもなった。

次世代革新炉の一つに熔融塩炉がある。米国オークリッジでは実験用溶融炉が1965-69年まで順調に運転した実績を持っている技術である。熔融塩炉という液体燃料が原子炉の中を流れるので、爆発することは原理的に考えにくい構造になっている。ウランに替えてトリウムを使うトリウム熔融塩炉は、単にプルトニウムを消滅するだけでなく、軽水炉よりも安全で低コストな発電を可能にする。実現すれば中間貯蔵問題を解決でき、安価なエネルギーを大量に安定供給してくれるという代物である。

将来的に核融合が実用化されるとしても、それまでは、使用済核燃料問題を解決しながら、安全、低コスト、安定した電力供給できる小型原子力発電の可能性を持つトリウム熔融塩炉に、一日も早く社会のスポットライトが当たることを願っている。  (季刊サラームNo36 2021年2月春季「第二の原子力時代の門を開くトリウム熔融塩炉」参照)

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