201505

GCC DAYS IN JAPAN  東京開催2015年4月22日~24日

概略報告 サラーム会会長 小林育三

電子季刊紙 Salaam Quarterly Bulletin, 2015年5月, 夏季号より


2015年4月22日、レセプションの開かれたコンラッド東京ホテル

湾岸協力理事会(GCC:The Cooporation Council for the Arab States of the Gulf)は2004年パリでの開催を皮切りに毎年GCC Daysを開催してきた。過去10年間は主にヨーロッパで開かれてきたが、第10回目の開催国を日本とし東京開催となった。主催者を代表してアルガッサーニ閣下は「GCC加盟国(湾岸6カ国)は統一的立場で開催国での会議を通し開催国とのより良い関係を創ることが目的です」と挨拶した。


主催者挨拶
GCC 文化情報担当事務局長補
アルガッサーニ閣下

1日目のテーマは「GCC諸国と日本との経済協力について(現状と今後への期待)。
2日目のテーマは「GCC諸国と日本間の交流と相互理解の促進」。
3日目のテーマは「GCC諸国と日本間のメディアの協力について」。

これまでGCC諸国と日本は経済関係が突出しており、政府間関係が主要な関係であったが、教育、文化、メディア等交流分野の拡大と民間交流の拡がりを求めての課題について各セッションに分けてGCCと日本からの代表者によるプリゼンテーションが順次なされた。またモデレーターを立ててのディスカッションも取り入れ理解を深める方法がとられた。


GCC加盟国


第1日目参加者レポート

GCC文化担当事務局長補のアルガッサーニー閣下の主催者挨拶を受けて、伊藤伸彰経済産業省通商政策局大臣官房審議官通商戦略担当(写真下左)がウェルカムスピーチを行い開幕した。

セッションでは、1、GCC 諸国と日本の経済協力の現状と促進、2、日本とGCC諸国との化学や産業分野における専門家の交流、3、GCC諸国への投資機会と展望、4、代替エネルギーについて、の4テーマが取り上げられ、GCC側代表と日本側の代表から各々プレゼンテーションがなされた。テーマ3と4については、プレゼンテーション後ディスカッションを交えて理解を深める形式がとられた。セッション1では、GCC側からクウェート商工業省国際機関・国際貿易担当次官補のシェイク・ネムル・ファハド・アルサバーハ氏(写真上中)がスピーチをした。

GCC諸国と日本の経済協力は、石油や天然ガスといったエネルギー資源の日本側の輸入、自動車、機械製品の工業製品のGCC側の輸入が基本となっている。特にエネルギー資源については、日本は原油の8割、ガスの3割をGCCから輸入している。日本からの輸出については、水(海水の淡水化)のプラントや脱石油依存を目指すGCCの希望から製造業への投資(サウジ)や鉄道(カタール)などのプロジェクトが進んでいる。

直接投資の具体例として、住友化学から石油化学統合プロジェクトとしてPETRORABIGH(ペトロラービグ)の事例報告もあった。(住友化学常務執行役員、竹下憲昭氏、写真上右)

また、代替エネルギーへの取組みについては、GCC内で太陽熱エネルギー、風力発電といった再生エネルギー、また原子力活用などへの取組みについて、各々のエネルギーの利点欠点を交えての説明があり、この分野でも日本の技術協力を求めている発表がなされた。日本側からは、地球温暖化を防ぐためにも、ガスから水素を分離し水素エネルギーとして活用したり、CO2は地下に埋める技術を活用するなどの提案が行われた。

総じて、GCC側からの日本への期待として大きなことは、技術移転、直接投資の促進、長期的計画などがあった。そのためGCCはインフラ整備を進めている。具体的には自由貿易地帯の準備、日本企業進出に当たっての個別的支障の除去、立法面での整備、税の優遇(二重課税防止等)など、柔軟な経済政策をすでに取っているとのアピールがあった。

また、人的交流が不足している理由として、上流部分(原油採掘)に日本の協力が今まで少なかったことに加え、語学問題の指摘があり、GCCに日本語を学ばせる提案を日本側から欲しいと言った意見も出されていたのは興味深かった。


PETRORABIGH(ペトロラービグ)の事例報告もあった。
Petro Rabigh : From Wikipedia, the free encyclopedia

ラービグ精製石油化学社(ペトロラービグ)はサウジに本社を置く企業であり、 精製炭化水素と石油化学製品を生産販売している。サウジのアラムコと住友化学の合弁企業である。現在株式は公開され、サウジ証券市場で取引されている。

ペトロラービグは40万バレル(64000㎥)の精製能力を有し、ナフサ、ケロシン、ガソリン、ディーゼル、オイル燃料を生産している。同社が最初に株式を公募したのは2008年1月。株式の所有比率はサウジアラムコと住友化学が37.5%、25%が一般公開されている。同プラントの2段階目のフィジビリティー調査が今行われている。


第2日目参加者レポート

アルガッサーニGCC文化担当事務局長補は、「友好関係は、内政不干渉、領土不可侵、紛争の平和的解決に基づいて成されるべきで、このような基本的立場から世界平和を目指すことができる」と指摘し、「テロはいかなる理由があっても正当化されることはない。2015年2月のGCCは「テロに対する資金断絶、支配地域の監視強化、ダーイッシュ(ISIL「イスラム国」)に対する監視強化を決議した」とし”イスラムの寛容と協調”によって平和を取り戻すと強調した。

さらに、GCC間では前進主義、科学主義に基づく相互互恵関係の具体化として関税同盟を結び(港湾の共同使用実現)、その結果2008年1月から貿易量が飛躍したことを図表下図で説明した。


GCC-日本間の貿易額

外務省参与、遠藤茂GCC及び湾岸地域担当大使はGCC Daysが初めて日本で開催されたことを日本政府を代表し歓迎し、開催に向けての加盟国政府、協力関係者に謝意を示し、また、2011年の東日本大震災の被災地にGCCからの支援による被災地の復旧、友情を忘れることはできない、と感謝の言葉を述べた。

そして日本の安倍首相がいち早くGCC6カ国全てを歴訪したことはGCCのプレゼンスが増していることの証であると指摘した。2013年5月、安倍首相のジッダでの政策スピーチでは「共生・共栄・協働”が新時代をつくる」とのテーマであったことを紹介し、寛容の精神が安定の基因であることを確認し、過激主義にならないGCCと日本の関係は新たな高みへ向かっている、と明るい展望の挨拶であった。
(参照 外務省HP http://www.mofa.go.jp/mofaj/kaidan/page4_000069.html

司法省宗教局局長アルカタン博士(バーレーン、写真左)は、「それぞれの宗派、思想、考えは平等に扱われる。またコーランでは1人を殺すことは人類全体を殺すことである、と教えている。互いを尊重し、敬意を表す。人種、民族の違いを超え人間性の尊重が出発点であることはユネスコ憲章に示されているとおりである」と指摘し、「イスラムの寛容性はニューヨークの国連でも知られるところであり、2012年のウィーン会議では「寛容が過激をなくす」とし、2015年2月にはメッカにおいて「テロ追放」を決議した」ことをあげ、ダーイッシュに対するGCCの積極的な取り組みがなされてきただけでなく、クウェートのサバーハ首長の人道主義推進が2014年9月の国連で”人道支援指導者”として表彰されたことも紹介した。

JETRO佐藤寛アジア経済研究所上席主任調査研究員は、漫画、アニメがGCCの若者に人気を博しており、これからは庶民同士の直接の交流として留学や修学旅行を推進することを提案した。

また東京大学辻上奈美江准教授はGCCの急速な人口増加により、大学の新設、海外大学の誘致、アジア留学促進等の政策が推進されていることを現在サウジアラビアからの日本留学生は600人を超えていると報告した。准教授自身も女子生徒をサウジへの短期派遣を試みサウジの生活を生で触れ合う体験をさせていることを紹介した。

最後のセッションで、ビラール閣下(カタール駐日大使、写真左)がGCCと日本との共通の価値観として、「寛容と慈悲」を挙げた。それを受け再び登壇した遠藤GCC大使は、「政治、経済、軍事の底流に“調和”、“寛容”という精神がGCCと日本との相互理解に大きな役割を果たしてきた」と応えた。

さらに、安倍首相はこれまで以上”積極的平和主義”にのっとってGCCとの間に政策対話、安保対話、戦略対話の下に、FTA協定交渉、産業協力タスクフォース、中小企業支援、省エネ分野の専門家派遣、平和的原子力協定等々を推し進めてきた、としGCC地域が安定を保ち続けているおかげで日本は原油輸入の78%、LNGの3割を安定的に供給していただいていることを強調した。

最後に図表を使って、サウジにおけるペトロラービグ(図表下参照)は日本外交としても意義があった、とし「GCCは日本にとって大きなマーケットである(図表下の下参照)」ことを提案し今後の、更なる交流に期待を寄せた。
駐日カタール国特命全権大使 ユセフ・モハメド・ビラール閣下


第3日目参加者レポート

アルガッサーニー閣下は「現代はメディアの時代である。メディアが強い影響力を持つことは、信頼に基づく真の情報であれば良い影響を与えるが、そうでなければ危険もある。イスラムは犠牲を尊び、家族を大切にし、人々を尊重する、にもかかわらずイスラムについて真実でないことが言われることがある。今回の会議をとおしこれまで築かれてきた成果のうえにさらに良い協力関係築き、いままでなかった新たな協力関係を拓いていけることを期待する」と挨拶した。

赤阪清隆フォーリンプレスセンター理事長は「メディアの果たす役割が重要であるということはいまお話があったとおりです」とし、3点を指摘した。

1)日本から海外に充分情報発信されていない。

日本にいるフォーリンプレスセンターで働く海外メディアのかたは550名おられますが、そのうち300名がノンジャパニーズで残りの250名は日本人で海外メディアの為に働いている人です。中国が80名、韓国が40名、GCCは2名(カタール、アルジャジーラ)で、少し前はこの倍くらいいました。半減しているのが実状です。反面、日本の海外特派員は600名おり、アジアへ250名、北米へ150名、ヨーロッパへ132名、中東・アフリカへ45名、ちなみにGCCへはドバイへ朝日、日経、NHKの3名です。カイロには多数いてGCCをカバーしています。

海外からニュースを持ってくることに熱心ですが、日本から発信される日本の報道は少ない。

2)GCC諸国と日本の互いのイメージは正確ではない。

外務省から聞く最近のアラブにおける対日感は親日的です。歴史的負の遺産が無いせいでしょう。従来は産業協力を通して親日になった人が多かったと思われますが、昨今では漫画、アニメ、トップカルチャーが人気です。

一方、日本のGCC観はバラバラで、例えばドバイはオイルマネーでウハウハ、超高級マンションに住む、贅沢、超高層ビル、夢の国等々。最近は過激組織「イスラム国」の影響により、悪いイメージに向かっている。

3)日本とGCCとの互いのメディアで協力できることは沢山ある。

先ず日本と中東メディアの定期的対話を提案したい。日本メディアに対してはイスラムへの正しい理解に努力していきたい。NHKなどのテレビ番組を通し。

また、GCCから日本に情報(GCCが過激主義や「イスラム国」をどう視ているか)を流していただきたい。

今後日本のメディアはは2020年のドバイ万博、2022年カタールでのサッカーワールドカップ等をチャンスとしていただきたい。

サラマー博士(サウジアラビア王国、写真左)は「2010年にはドバイにNHK支局ができ、カイロには読売、産経の支局ができています。またサウジにはフジテレビ、テレビ東京も来てGCCの生活と文化を伝えようとしている。アルジャジーラはアラビア語でドキュメンタリーで日本の文化をつたえており,多くの成果を上げている。しかし未だアメリカ、ヨーロッパを通じての日本観が強いのが実状だ」と概略を説明した。

一方、ディスカッションの場では率直に「ダーイッシュの犠牲者は我々だ。迷惑している。我々の社会は一致してこれに対抗しており、40カ国がこれと戦っているのが実状だ」と強く語った。

山内昌之東京大学名誉教授(公益財団法人中東調査会常任理事)は日本のメディアの報道に対し苦言を呈した。そのポイントは、

  1. 人道支援に対して、GCCで報道されていることが日本で報道されなかった。
  2. 2015年1月、邦人2人がダーイッシュに殺害された事件に関し、1月24日NHKでは「日本も敵としてとらえられても仕方ない」、という発言があった。それはダーイッシュを独立国家としてとらえても仕方ない発言として受け取られる。
  3. 日本の外交の柱は、非軍事的支援すなわち人道支援であるが、これを軍事的後方支援と位置付けた解釈をしていたが、これは正しくない。
  4. メディアの一部に、シリア、ヨルダンへ向けられた人道支援がダーイッシュの邦人殺害と関連しているかの論調があったがこれは事実誤認である。ヨルダンは人口630万人、日本にとって大切な国、そこにイラクから40万人、シリアから70万人の難民が加わっている。ヨルダンのGDP成長は2009年5.5%、2013年2.8%に鈍化、GCCを含めた外国からの直接投資は2006年23.5%が2013年4.0%となっておりシリア、イラクの内戦による投資環境の悪化が原因している。就業率も減少し、特に若者の失業率は32%に上っている。
    ヨルダンへの支援は2010年民主党政権時代からすでに行われてきていることである。
  5. >安倍首相の表明した人道支援2億ドルの内容に対し、メディアは分析していなかったと思われる。それゆえダーイッシュを刺激したという論が見られた。しかし2億ドルの内容は①難民への水と食糧の配給②仮設住宅の整備③教育、職業訓練等。援助の対象国は、ヨルダン2800万ドル、シリア3300万ドル、イラク9000万ドル、レバノン1820万ドル、トルコ1530万ドル、エジプト400万ドル。以上の金は自由に使われる金ではなく軍事に転用されることはありません。メディアはこの内訳を報道していただきたい。軍事ではない人道支援は日本の得意とするところであり、平和外交を旨とする日本の中東外交の根幹である。

最後に、日本のメディアの中東関与のあり方、について「中東は日本を愛している、日本を嫌っていません、憎悪していません。だからといってテロリストからも愛される、これはあり得ません。アルジェリア邦人殺害、ダーイッシュによる邦人殺害事件等をとおし、中東一般のアラブ人の日本に対する見方が変わった、という見方が一部にあるが、これはGCCを初めとする中東アラブの良識ある市民の声を代弁しているとは言えない」と締めくくった。

日本経済新聞社編集委員中西俊裕氏は18歳からアラビア語に親しみ中東イスラム世界に身をおいてきた者として、外国メディア(日本のメディアも含む)はどうしてネガティブな報道をするのか?テロ、戦争報道が多く誇張されるのではないか?と問いかけた。

GCCを例に上げ、ナセル時代、イラン・イラク戦争、湾岸戦争、イラク戦争、アラブの春、と何回もの危機が湾岸諸国を襲ったが、そのたびに湾岸諸国は結束し、王政、首長制という国家体制を維持してきた。このあたりは外国メディアは読めていないのではないか? として”メディアの誤伝達”についての率直な気持ちを吐露した。

NHKの二村伸氏はNHKとアルジャジーラが共同して制作し2011年3月に放映された14分の映像(写真下)を紹介した。全く同じ映像をNHKでは「子供大科学実験」(オレンジジュースによる手作り電池)として、アルジャジーラでは同じ実験素材をアラビア語で制作し紹介した。

メディアの協力によって開かれる明るい未来を印象付けてくれた。


他の記事は、電子季刊紙 Salaam Quarterly Bulletin, 2015年5月, 夏季号にて…