eスポーツ、国体で文化事業として開催
日本のeスポーツが新たな段階へ
ジャーナリスト 佐野富成
電子季刊紙 Salaam Quarterly Bulletin, 2019年11月, 冬季号より
茨城県開催第74回国体(9月28日から10月8日)で、10月5日と6日、①eスポーツが文化事業の一環として初めて開催された。全国の予選を勝ち抜いた各県の代表約600人の選手がつくば市のつくば国際会議場に集まり熱戦が繰り広げられた。国が定める大会としては初めての大会で、eスポーツ初代王者が誕生した。
国体の文化プログラムとして
“スポーツの祭典”である“国民体育大会(=国体)”に合わせ“全国都道府県対抗eスポーツ選手権 2019 IBARAKI”が2019年10月4日~10月6日に茨城県で行われた。本大会は日本でもっとも大きいeスポーツとして行われた。
国体の②文化プログラムとして誘致した茨城県の大井川和彦知事は「eスポーツは年齢、性別、障害の有無に関係なく、いろんな人が参加できる競技。だからこそ国体でできるものと感じていました。国体が若者に注目してもらえるいいチャンスとなり、県のイメージを向上できる」と発言し意気込みをみせた。
熱気がこもる「ぷよぷよ」の試合会場に設置された大きなスクリーンを観ながらの観戦
国体ではレーシングゲームの「グランツーリスモSPORTS」、スポーツゲームの「ウィニングイレブン」(サッカー)、パズルゲームの「ぷよぷよ」、の三つの競技種目が行われた。全国の予選を勝ち抜いた各タイトル出場者は小学校低学年から48歳まで合計約600人の選手が、つくば国際会議場(茨城県つくば市)に集まった。
日本eスポーツ連合(JeSU)の岡村秀樹会長は「JeSUは昨年、発足したばかりだが、国体の文化事業としてeスポーツが開催できたことはよかった」と語った。
三種のeスポーツ競技種目
つくば国際会議場で行われたeスポーツ「ウィニングイレブン」の各県対抗のリーグ予選
「ウィニングイレブン」
なんと言っても「ウィニングイレブン」はeスポーツの代表格だ。1995年にコナミが開発した画期的サッカーゲームだ。シンプルな操作とシュートの爽快感は日本サッカー選手にも愛好家が多く日韓ワールドカップ開催ブームに乗った日本サッカーの興隆に後押しされ2000年代中頃まで「ウィニングイレブン」シリーズの人気は上昇し続けた。
その後10年間は「FIFAシリーズ」の人気に押されてきたが、ここ5年は順調に人気を回復し今年のシリーズ20を迎えている。
モニター試合の様子を見つめる各県代表や関係者ら
茨城国体でグランツーリスモ使ったe スポーツ選手権が初開催
「グランツーリスモ」
eスポーツのなかでも独自に発展したタイトルだ。F1などの自動車レースを管轄する国際自動車連盟(FIA)が支援して国際大会が行われている。コントローラーが、実際のレース用の椅子とハンドル、アクセル、ブレーキペダルなど専用のデッキでプレーするため、パソコンなどの機器を利用してのものではない。
「グランツーリスモSPORTS」の予選・決勝トーナメントの会場となった大会議場
試合や会場を盛り上げるのに必要不可欠な実況
プロゲーマーの参加で注目された「ウィニングイレブン」と「グランツーリスモ」
「ウィニングイレブン」の決勝で、茨城県同志の対決を制した茨城県第2代表チーム。右から2番目は、昨年のアジア大会で金メダルを獲得したプロゲーマー、レバこと相原翼選手
「ウィニングイレブン」と「グランツーリスモ」に世界で活躍する選手(プレイヤー)が出場した。「ウィニングイレブン」には、昨年のアジア大会に出場して見事金メダルを獲得したレバことプロゲーマーの相原翼選手が茨城県第2代表チームのメンバーとして参加し、優勝に貢献した。
相原翼選手は「こうした大会が行われることはありがたいです。これまで自分は1対1でやってきて(ウィニングイレブンの)プロライセンスを獲得しました。でも3対3の対戦ははあまり経験していないので、最後はミスったかなあと思ったんですけれど、止まってくれて」、とこれまでとは異なった優勝感に頬を緩めた。
グランツーリスモ一般の部で優勝した山中智瑛選手(左)と高橋拓也選手(右)
一方「グランツーリスモ」の一般の部では、栃木県代表の山中智瑛選手と高橋拓也選手が優勝した。
山中、高橋ともに「グランツーリスモ」では、日本を代表する顔として知られている。特に山中選手に対しては、リアル自動車レースの日本プロドライバーも一目おくプレイヤーとして評価されている。また高橋選手もプロとして活動中だ。
山中選手が当初から「世界よりも国体で勝ちたかった」と国体イベントへの意気込みを語っていたように、トッププレイヤーのこうした国体の参加の意義は大きい。
未だ高くないeスポーツの日本における地位
世界の競技人口は約1億人だが、日本は390万人。一方、競技人口以外の観戦、視聴者は世界で3憶8000万人、日本では160万人といわれている。視聴者人口に関しては、テレビ、ケーブルテレビ視聴よりもネット観戦(YouTubeをはじめとした配信動画)視聴が多いが、競技人口と視聴者を見ても日本は少ない。
その要因のひとつに「ゲームは、スポーツなのか」という疑問だ。スポーツと言えば、やはり体を動かすものという認識が強い。スポーツとは「楽しむ」という意味合いを持っているので、海外においてはeスポーツもスポーツとしての認識にある。世界的なeスポーツとしての認識の拡がりに比べるとまだまだの状況にある。こうした中で、国体の正式種目ではないものの文化事業として開催できたことは非常に意義深いと言える。
国際eスポーツ連盟
毎年9月に日本の幕張メッセ(千葉県千葉市)で開催される東京ゲームショウでeスポーツの現状について講演した国際eスポーツ連盟(IeSF、本部:韓国)のレオポルド・チャン事務局長は今回の国体におけるeスポーツ開催に強い関心寄せていた。
東京ゲームショウでの日本eスポーツ連合・岡本秀樹会長(左)と国際eスポーツ連盟・レオポルド・チャン事務局長
講演でチャン事務局長は「現在国際eスポーツ連盟には56カ国が加盟し、そのうち31カ国でその国のスポーツ省やオリンピック委員会といった国際的な機関でeスポーツはスポーツとして認められている。ドーピングに対する取り組み、競技プレイヤーの引退後の生活に対する保障・支援などの組織の立ち上げも同時進行で積極的に行っていく」と語っていた。
リアルスポーツでも課題となっている引退後の支援であるが、eスポーツが未だ国際オリンピック委員会(IOC)の競技種目としての加盟前であるにもかかわらず、環境整備を行っている点からも本気で五輪種目として考えていることがうかがわれる。
eスポーツ選手の育成と教育面における環境整備としてeスポーツのナショナルトレーニングセンターの設立も行っている。最近加盟したメキシコでは、ナショナルトレーニングセンターの設置を明らかにした。
重み有る日本eスポーツ連盟(JeSU)の国際eスポーツ連盟加盟
国体出場前に2019年東京ゲームショウのイベント大会に出場したレバ(相原翼)選手(写真中央)
周囲のeスポーツに対する考えは、実のところ日本が最も厳しい。依然、スポーツ庁や日本オリンピック委員会(JOC)はスポーツと認めていない。しかし世界のゲーム業界において日本が大きな影響力があることをチャン事務局長は認めている。市場こそ小さいもののそのゲームの質を見極める日本ユーザーの眼は厳しい。そのため、海外のゲームソフト開発者たちは日本のユーザーの声を気にする。東京ゲームショウ内で行われる、優秀なゲーム作品、ユーザーが支持する作品などを表彰するゲーム大賞で評価されることはひとつのステータスとして受け取られている。
昨年誕生した、日本eスポーツ連合(JeSU)が、国際eスポーツ連盟に加盟を希望した際には、もろ手を挙げて歓迎の意を示した。チャン事務局長は、「日本の加盟は大きい」と語った。
国体文化事業としてのe スポーツ参加は大きな一歩
日本eスポーツ連合の岡村秀樹会長は「国体で(文化事業とはいえ)できたことは非常に大きい。これからの布石になる。この成功は第一歩だ。国体というネームバリューは大きい」と大会終了後に語った。また、来年の国体の会場となっている鹿児島県からもeスポーツについての問い合わせが来ているという。
組織としてのeスポーツ連合は、誕生したばかりでまだ組織的には固まっているわけではない。広報、育成、福利厚生など課題すべきものが大きいが、広報に関して「学校の講演、eスポーツに関する説明といったことには積極的に応じていきます」と話している。
茨城県のいばらきゆめ国体でeスポーツを開催できたことは、これからの日本にとっては大きな一歩となったことは間違いない。
「ゲーム障害」への対応
また世界保健機関(WHO)が今年、「ゲーム障害」を正式に国際疾病に認定した。アルコール依存症といった依存症と同じ扱いとした。この対応について岡村会長は「この件に関しては、eスポーツ連合としても正式な見解を発表したいと考えている」と語り、各専門部署の分析と対策を話し合いながら、日本eスポーツ連盟としての(時期は明確にしなかったが)公式見解を示していきたいとしている。
ちなみに、いばらきゆめ国体で優勝者に話を聞くと、平均2時間から3時間という応えが返ってきた。さらに「親子との約束があったか」を聞くと「していない」との答え。「グランツーリスモSPORTS」一般の部優勝の山中選手は「長時間やっても意味がない。こもってもうまくはならない。私は、忘れないように毎日、15分だけでも触っていたほうがいい」と応えた。「ウィニングイレブン」の「レバ」こと相原選手も「親との約束はしていません」ときっぱり言い切っている。
タイトルにもよると思われるが、世界と戦うには「量」よりも「質」が重要になってくるということなのかもしれない。
eスポーツがオリンピックの正式種目になるための課題
国際eスポーツ連盟は2024年、2028年にはオリンピックの正式種目へ、という目標を掲げていたが、この頃は「五輪の正式種目を目指す」と、何年までにということは明確にしていない。
国際オリンピック委員会バッハ会長の「暴力的な作品はオリンピック競技には相応しくない」という発言について、国際eスポーツ連盟チャン事務局長は「会長が言われたのですか?信じられない。確認したい」と応えていた。
確かに世界的に人気のeスポーツの中にはバッハ会長が留意すると思われる内容の作品が残念ながら上位にある。
2018年現在のデーターをもとにあげると、賞金総額3位の「Counter-Strike: Global Offensive」である。
特殊部隊とテロリスト、互いのせん滅で勝負を競う「Counter-Strike: Global Offensive」(Steam | CounterStrike: Global Offensive より)
戦争を生き残るためのサバイバルを題材にした「Call of Duty: Infinite Warfare 」(Steam | Call of Duty: Infinite Warfare より)
賞金総額約4761万ドル。参加プレイヤー数9211人。トーナメント数3031大会。2012年発売。1万人近くがプレイする人気作品だが、その設定は「特殊部隊VSテロリスト」という構図で互いのせん滅を目的としている。
似たようなタイトルの「Call of Duty: Infinite Warfare」も挙げられる。戦争をテーマに、プレイヤーが戦場を戦い抜くというもので根強いファンが多い。
その一方注目を集めているのが、日本の代表的eスポーツとなっている格闘技ゲームとして知られている「鉄拳」シリーズや「ストリートファイター」シリーズだ。「ストリートファイターⅤ」は、賞金総額189万㌦で23位、「ウルトラストリートファイターⅣ」は73万㌦で46位。
サッカーの「FIFA17」は、国際サッカー連盟(FIFA)公認のゲームで、最も一般層にも近い作品と言われ賞金総額は146万㌦で30位だ。国体や昨年のアジア大会で採用された「ウィニングイレブン」もあるが、世界的な広がりという点では、「FIFA」シリーズの後塵を拝している。今回、国体でも種目として採用された「グランツーリスモSPORTS」は、グランツーリスモファンによって大会が開かれているため他のeスポーツとは独自の発展を遂げた。
ファミ通AppVS イベントリポートより
オリンピック正式種目採用を考えるならば、戦争もの、戦闘ものは外さざるを得ないのではないか。戦争・戦闘ものは欧米のゲーム企業が開発したものが多いのに対し、現在注目を集めている作品タイトルの多くは日本製だ。③「ウィニングイレブン」「ストリートファイター」「グランツーリスモ」その他「パワプロ」(パワフルプロ野球)等、スポーツゲームにおいては欧米の先を行っているともいえる。
オリンピック正式種目とするならば、タイトルを統一する必要性に迫られる。タイトルによってはそのタイトルの著作権・販売を有する企業が前面に立っているが、これをJeSUとしてどのようにまとめていくか等々、課題は山積している。だからこそ日本の今後の動向はより世界の注目を集めている。
脚注
① eスポーツ
電子機器を用いて行う娯楽、競技、スポーツ全般をいい、コンピューターゲーム、ビデオゲームを使ったスポーツ競技「eスポーツ」。「エレクトロニック・スポーツ」の略。複数人のプレイヤーで対戦するゲームをスポーツとして解釈して「eスポーツ」と呼んでいる。
(いきいき茨城ゆめ国体・いきいき茨城ゆめ大会実行委員会事務局HPより)
②文化プログラム
文化プログラムとは、国民体育大会の行事の1つで、スポーツ文化や開催県の郷土文化をテーマとしたプログラムを実施することにより、大会を盛り上げようとするものです。併せて、県民のみなさんの文化・芸術活動等を通じ、茨城の魅力を全国に発信しようとするものです。
③「ウィニングイレブン」
サッカーゲーム『eFootball ウイニングイレブン 2020』の部門は、少年の部(高校生)と、オープンの部(年齢制限なし)の2部門。オンライン予選と、オフラインの代表決定戦を経て勝ち抜いたチームが本大会へ進出した。
レギュレーションは、3人で協力して1 チームを操作する“ PESLEAGUE CO-OP”モードを使用。各代表のチーム人数は3人~5人まで認められており、プレイする選手の交代(いわゆる控え選手)や、監督係としてのコーチング、または応援係など、最大5人のチームメンバーの運用を自由にできるのは、ほかのタイトルにはないユニークなポイントだろう。
(ファミ通AppVSイベントリポートより)
記事の続きは、電子季刊紙 Salaam Quarterly Bulletin, 2019年11月, 冬季号にて…