201802

中東で広がる“e-スポーツ”

2022年アジア競技大会から正式種目に決定

ジャーナリスト 佐野富成

電子季刊紙 Salaam Quarterly Bulletin, 2018年2月, 春季号より

昨年4月、“e-スポーツ”と言われる競技が、2022年の中国で開催されるアジア競技大会の正式種目に決定した。そして、2018年にはインドネシアで開催されるアジア大会で公開種目として行われることになった。

“e-スポーツ”とは?



2017年に幕張メッセ(千葉県千葉市美浜区)東京ゲームショーで公開されたe-スポーツ大会(岸元玲七撮影)

“e−スポーツ”とは「エレクトロ二ック・スポーツ」の略だ。ゲームの中から生まれたスポーツとも言うべきもので、サッカーや野球、ソフトボール、バトミントン、陸上競技、卓球、テニス、体操、新体操など様々なスポーツ競技とは一線を画している。

ゲームには古典的なボード、カードを使ったものから、ビデオゲーム(テレビゲーム)やパソコン(PC)ゲームというものがあるが、“e−スポーツ”で基本的に採用されるものは、テレビゲーム、PCゲームで使われているタイトルのゲームソフトである。対戦型を主体にした格闘型パズルゲーム、サッカーや野球を中心としたスポーツゲーム、レーシングゲームそしてシューティングゲーム等が挙げられる。


Halo series by Microsoft

代表的なものには、
「Halo」シリーズ(マイクロソフト)
「鉄拳」シリーズ(バンダイナムコ)*1
「バーチャファイター」シリーズ(セガ)*2
「ストリートファイター」シリーズ(カプコン)
「ウィニングイレブン」シリーズ(コナミ)*3
「グランツーリスモ」シリーズ(ポリフォニー)*4
などがある。


Street Fighter by Capcom

とくに格闘ゲームの「ストリートファイター」「鉄拳」などは対戦型の代表作品として“e−スポーツ”でも定番のゲームタイトルとなっている。

競技人口の広がり

現在、競技人口は東アジア地域では中国、韓国に特に多く、東アジア地域と欧州・米国を合わせれば5500万人以上と言われている。また、競技観賞者、インターネットによる観賞者は3億5000万人以上と言われている。

中国では、国が支援すべきスポーツとして指定競技にされており、韓国では“e−スポーツ”競技者、いわゆるプロゲーマーが人気アーティスト並み又はそれ以上の人気の職業として認知されている。一方日本はゲーム大国と言われながら、“e−スポーツ”に対する認知度は先進国の中で最も立ち遅れてしまったものの競技者の実力は高く、多くの大会で優勝するなど高い実績を残している。

中東アラブ圏の“e−スポーツ”への取り組み


据え置き型ゲーム機PS2

中東アラブ圏に関しては、イスラム教の宗教的な拘束はあるものの徐々にではあるが認知度が拡大している。

中東アラブ圏の特徴は、据え置き型ゲーム機(主にPS2)が急速に普及している。そこに“e−スポーツ”が追随する形だ。その主戦場とされるのが、サウジアラビア、アラブ首長国連邦、クウェートなどアラビア半島が中心だ。厳格なイスラム教国でありながら最先端の情報技術に興味を持つ閣僚が音頭取りをなしたり、民間レベルで“e−スポーツ”を支援し、そこに政府が後援または支援する形をとるなど競技実施のしかたは様々だ。

中東アラブ圏におけるゲーム市場と“e−スポーツ”大会の実施規模は、欧米や中国、韓国に比べればまだ小さいが、潤沢な資金によって支援されている。

アジア大会の正式種目に決まった背景にクウェート


3・11東日本大震災後日本支援のためにクウェートで開かれたe-スポーツ大会のポスター

アジア競技大会の正式種目として2022年に中国で開催することが決まった背景には、中国の企業集団アリババグループの支援もあるが、同大会を主催するアジアオリンピック評議会の影響もあると言われる。現代表はシェイク・アーマド・アル=ファハド・アル=アーマド・アル=サバーハ氏でクウェート王族だからだ。

実際、クウェートでは民間団体などが中心となって“e−スポーツ”を推進している。サウジやアラブ首長国連邦と比べるとビデオゲーム市場の注目度は低いが、“e−スポーツ”の振興という点では中東アラブ圏では、10年以上の実績を持っている。とくに“e−スポーツ”競技大会を中東のどの国よりも早く開くなどその草分け的存在だ。


昨年来日したユシフ・アルロウミ氏と筆者

クウェートは当初、イスラムの厳格な教義の故に運営上厳しい面もあった。しかし、“e−スポーツ”を推進する民間団体を率いるユシフ・アル・ロウミ氏らの努力によって現職大臣が大会に顔を出すなど積極的な動きを見せている。ユシフ氏らはその一方で、クウェートを中心に日本の漫画やアニメ、ゲームを紹介する活動も行っている。

そういった国内の事情もあり、“e−スポーツ”への理解度は、中東アラブ諸国のなかでは底堅いと言えるからこそ、アジアスポーツ競技大会の競技種目として採用したわけだ。


(上)2015年にユシフ氏がクウェートで開催したe-スポーツ大会
(下)真剣なまなざしでプレーする参加者

2026年アジア競技大会開催地は日本・名古屋

今年2018年は、2022年の中国・杭州アジア競技大会での正式種目として“e−スポーツ”が決定していることを受け、インドネシア・ジャカルタで開かれる今年のアジア競技大会では“e−スポーツ”のデモンストレーションを行うことが決定している。

世界で約16億人とも言われるイスラム教徒がいる中でアジア最大規模のイスラム教徒を抱えるインドネシアでのデモストレーションは、イスラム教徒が集中する中東アラブ圏でも“e−スポーツ”を広げる大きなきっかけになる可能性がある。


「ゲーム史上、世界で最も知られているゲームキャラクター」マリオ

2022年の中国大会では、より大きな世界競技大会として“e−スポーツ”が注目されるのは間違いない。さらに4年後の2026年の大会開催地は日本の名古屋と決定している。

「ゲーム大国」「テレビゲームの王者」としてかつて君臨した日本が“e−スポーツ”でも主導権を握れるか否か試される大会になると予想される。


脚注


*1 鉄拳シリーズ(バンダイナムコ)

*2 バーチャファイターシリーズ(セガ)

*3 ウィンイングイレブン(コナミ)

*4 グランツーリスモ(ポリフォニー)


記事の続きは、電子季刊紙 Salaam Quarterly Bulletin, 2018年2月, 春季号にて…