8月18日、山口県熊毛郡上関の西町長は、町として使用済核燃料中間貯蔵施設の建設に向けた調査を受け入れる考えを表明した。原子力アレルギーが強い我が国にあって、町の財政事情や経済効果を考えた上での判断とはいえ勇断だと感じる。
核燃料サイクルが確立されていない今日、軽水炉型原子力発電で出る使用済核燃料は中間貯蔵する必要がある。「トイレの無いマンション」と揶揄されるように、使用済核燃料は溜まる一方である。プルトニウムとウランを混ぜてMOX燃料にし、プルサーマルで再利用が進んだとしても、原子力爆弾の材料となるプルトニウムを消滅できるわけではない。
最近、世界中で次世代革新炉と呼ばれる小型原子炉の開発が進んでいる。昨年、ビル・ゲーツが共同設立したテラパワー社が進める原子力プロジェクトに三菱重工業と日本原子力研究機構が参画したことはニュースにもなった。
次世代革新炉の一つに熔融塩炉がある。米国オークリッジでは実験用溶融炉が1965-69年まで順調に運転した実績を持っている技術である。熔融塩炉という液体燃料が原子炉の中を流れるので、爆発することは原理的に考えにくい構造になっている。ウランに替えてトリウムを使うトリウム熔融塩炉は、単にプルトニウムを消滅するだけでなく、軽水炉よりも安全で低コストな発電を可能にする。実現すれば中間貯蔵問題を解決でき、安価なエネルギーを大量に安定供給してくれるという代物である。
将来的に核融合が実用化されるとしても、それまでは、使用済核燃料問題を解決しながら、安全、低コスト、安定した電力供給できる小型原子力発電の可能性を持つトリウム熔融塩炉に、一日も早く社会のスポットライトが当たることを願っている。 (季刊サラームNo36 2021年2月春季「第二の原子力時代の門を開くトリウム熔融塩炉」参照)