202202

日米同盟の深化と拡大こそ中国共産主義戦略克服の道

NPO法人サラーム会 会長 小林育三

電子季刊紙 Salaam Quarterly Bulletin, 2022年2月, 春季号より

昨年2021年における、米軍のアフガン撤収、それに伴うタリバン暫定政権の誕生は中東地域に潜伏するイスラム過激組織ISを小躍りさせ、力による現状変更を試みる中国を初めとする反米勢力を勢いづかせた。旗幟鮮明に積極的平和主義を掲げた安倍政権は菅政権に引き継がれたが、岸田政権は対中旗幟鮮明ではないようだ。日本が対中共産主義戦略克服を鮮明にすることが力による現状変更を試みる中国に対する最高の抑止力となる。


米・タリバンの歴史的合意

イスラム主義組織タリバンとイスラム過激組織ISとは違う。タリバンはアフガニスタンにイスラム主義国家を造る事を目指しており、ISは世界イスラム帝国を目指しアメリカを世界最大の悪の帝国としている。したがってタリバンにはアメリカ政権との合意はあり得ても、ISにはあり得ない。

米・タリバン歴史的合意を報じる世界日報(2020年2月29日)

米・タリバン歴史的合意を報じる世界日報(2020年2月29日)

2020年2月、米トランプ政権と反政府勢力タリバンはカタールの首都ドーハで和平案に調印した。この和平案はアフガン駐留米軍の段階的撤収を軸とし、アフガン国土をテロの拠点にしないこと、タリバンがアフガン政府との交渉の席に着くこと、であった。また非公開付帯事項としてアルカーイダとの関係断絶も約したという。アルカーイダとの関係断絶の事項は非公開ではあるが当然のことであろう。何故ならアメリカ軍のアフガニスタン侵攻は9・11アメリカ同時多発テロの実行犯アルカーイダの首謀者ウサマ・ビン・ラーディンを当時のタリバン政権が匿ったことが発端となったからで、タリバンが交渉の場で‘タリバンはアルカーイダとは関係ない’と証明する必要条件として、アメリカがタリバンにアルカーイダとの関係断絶を求めることは容易に想像つくからだ。またタリバン政権が目指すイスラム主義国家は再び9・11テロを起こすようなアフガン国土にしないことを約束させた、という事である。

2001年9月12日、国際連合安全保障理事会は満場一致で国連安保理決議1368を採択した。国連安保理決議1368は、2001年9月11日のアメリカ同時多発テロ事件を受け、同事件の被害国であるアメリカ合衆国及びその同盟国について、その前文において個別的又は集団的自衛の固有の権利を認識すると定めている。

2001年9月12日、国際連合安全保障理事会は満場一致で国連安保理決議1368を採択した。国連安保理決議1368は、2001年9月11日のアメリカ同時多発テロ事件を受け、同事件の被害国であるアメリカ合衆国及びその同盟国について、その前文において個別的又は集団的自衛の固有の権利を認識すると定めている。

その後アメリカはトランプ政権からバイデン政権と移行したが、タリバンとの合意は引き継がれた。故にアメリカ軍はアフガンから‘撤退’したのではなく、‘撤収’したのである。一方タリバンとアフガン旧政府との和平交渉は進展せず、タリバンの軍事的制圧による暫定政権誕生となった。したがってタリバン側の責務は、強権的、独裁的に旧政権を排除せず包括的政権を造ることである。国際社会はその事を注視している。‘20年前のタリバン政権と同じではない’ことを政策と行動で示すことができるか?タリバン次第だ。

ポンペオ米・国務長官の歴史的演説

カリフォルニア州のニクソン大統領図書館で演説したポンぺオ米国務長官(ポンぺオ氏ツイッターから)

カリフォルニア州のニクソン大統領図書館で演説したポンぺオ米国務長官(ポンぺオ氏ツイッターから)

2020年7月23日、ポンペオ国務長官(当時)はロスアンゼルス近郊のニクソン大統領図書館で「共産中国と自由世界の未来」と題して演説した。氏の演説は中国に関する一連の演説(オブライエン大統領補佐官(国家安全保障担当)、レイ連邦捜査局(FBI)長官、バー司法長官)に続く4回目になると前置きし、自分の演説はそれら全てをまとめ「中国の脅威が、米国の経済、自由、さらに世界の自由民主主義にどのような意味を持つかを詳しく説明するためのものだ」とした。

<演説の要点を抜粋>

1972年ニクソン大統領は歴史的な北京訪問で、関与戦略を開始した。我々は中国を歓迎した。互いに敬意を払い、協力し合える未来を期待した。ニクソン氏の関与戦略の目標は「中国を変革へ向かわせること」だった。中国共産党がそれに応え、自由で安全な世界を求める国へと変革することを期待した。

ニクソン大統 の中国訪問 – Wikipedia より

ニクソン大統 の中国訪問 – Wikipedia より

しかしそうはならなかった。それどころか中国共産党は我々の自由で開かれた社会を都合の良いように利用しただけだった。中国は優れた知的財産や企業秘密をだまし取った。米国からサプライチェーンを奪い取り、そこから強制労働で作った製品を流通させた。ニクソン大統領が、中国共産党に世界を開くことで「フランケンシュタイン」を作り出すことを心配していると言ったが、まさにそうなった。

ロバート・オブライエン米大統領補佐官の表敬を受ける安倍総理大臣2019年11月4日タイにて(写真提供:内閣広報室)

ロバート・オブライエン米大統領補佐官の表敬を受ける安倍総理大臣2019年11月4日タイにて(写真提供:内閣広報室)

オブライエン氏が指摘したように、中国共産党政権がマルクス・レーニン主義政権であることを忘れてはならない。習近平総書記は破綻した全体主義イデオロギーの信奉者だ。中国の共産主義に基づく覇権への野望を長年抱き続けている。イデオロギー上の根本的な違いを米国は無視してきたがこの違いをもはや看過することは許されない。
共産中国を眞に変革する唯一の道は、中国指導者らが言っていることではなく、その行動を基に対処することだ。

2018年10月6日、マイク・ポンペオ米国務長官の表敬を受ける安倍総理大臣(写真提供:内閣広報室)

2018年10月6日、マイク・ポンペオ米国務長官の表敬を受ける安倍総理大臣(写真提供:内閣広報室)

自由を愛する世界の国々は、中国に変革を促すべきだ。中国政府の行動は我々の国民と繁栄への脅威だ。中国共産党に対する見方を変えることから、始めなければならない。普通の国として扱うことはできない。

米・国際戦略の大転換

世界はトランプ大統領時代に大きな出来事を目撃してきた。シリアへの軍事攻撃、イラン核合意からの離脱。イスラム国の崩壊。米朝首脳会談。イスラエルとアラブ諸国との国交正常化。これらはトランプ政権の能動的対処による成果であり、モンロー主義に向かうと批判されながら、いずれも世界的戦争に発展しかねない重大危機問題に挑戦し、地雷の信管を抜くかの如く納めてきた。ノーベル平和賞に値する偉業であった。
 米・国際戦略の転換は中国との対立として浮き彫りになった。2019年の4月の米・安全保障会議で中国との対立を「文明の衝突」と位置づけた。主な対立点だけでも、貿易不均衡、安保戦略、南シナ海、台湾、知的財産権、人種(ウイグル問題等)が挙げられた。特に次世代通信規格「5G」の実用化をめぐりファーウェイ製品の排除を求めた。それは1980年代後半の‘日米貿易戦争’の比ではない。経済戦争の次元を遙かに超える対立だ。

今週に入って、ヒューストンの中国領事館の閉鎖を発表した。スパイ活動、知的財産窃取の拠点となっていたからだ。(7月23日のポンペオ演説より)。写真は2015年に撮影された旧在ヒューストン中国総領事館(ウキペディアから)

今週に入って、ヒューストンの中国領事館の閉鎖を発表した。スパイ活動、知的財産窃取の拠点となっていたからだ。(7月23日のポンペオ演説より)。写真は2015年に撮影された旧在ヒューストン中国総領事館(ウキペディアから)

かつて中共毛沢東は「戦争は血を流す戦争であり、政治は血を流さない戦争である」と語った。現代に言い換えれば超限戦である。軍事・外交のみならず政治、経済、企業、通商、教育、スポーツ、芸術・・・全ての分野は中国共産党の戦略目的の為に支配と統制の下におかれているのである。そして中国本土は全国民をAIと監視カメラで監視できるプラットホームの完成に向かっている。それは中国国内のみならず国外の中国人にも及ぼうとしている。

中国政府は現在、全国民14億人を1秒で特定できる監視システムの構築を進めている。顔認証機能付き監視カメラが配備され、2020年一杯までに6億2600万台に増強するという。PRESIDENT Online 2020/06/08(撮影=倉澤治雄)

中国政府は現在、全国民14億人を1秒で特定できる監視システムの構築を進めている。顔認証機能付き監視カメラが配備され、2020年一杯までに6億2600万台に増強するという。PRESIDENT Online 2020/06/08(撮影=倉澤治雄)

ポンペオ国務長官の演説は、米中対立を文明の衝突という次元以上の深刻な対立としてとらえている。それは中国から拡がる文明の波と米国から拡がる文明の波が衝突した、と言う次元の内容ではない、と言っている。すなわち30年間続けてきた中国への関与戦略によって、関与戦略の目標であった中国を変革する事は失敗し、逆に中国は強大国になり共産主義イデオロギーに基づく中国全体主義は強固な独裁国へと向かいアメリカの前に立ちはだかり、アメリカ国内に共産党員が侵入し、あらゆる分野に浸透して超限戦を仕掛けている。
アメリカがとってきた国際戦略、すなわち‘30年間の中国関与戦略’は失敗だった。関与戦略ではマルクス・レーニン主義の中共全体主義を変革する事は出来なかった、と言っている。
中国は普通の国ではない。共産主義イデオロギーを信奉する全体主義国家であることを認識して対応すべきであり、自由と人権、民主主義と法の支配を順守するという価値観を共有する国の連携が求められる、と訴えている。

日米同盟の深化と拡大は共産中国への抑止力

安倍元首相の提唱による「自由で開かれたインド・太平洋構想」は中国の一帯一路の‘欺瞞と罠’を糺す日本発の対中克服戦略と言っても過言ではない。日米の価値観と対中戦略は一致した。クワッド(日米豪印)、オーカス(オーストラリア、イギリス、アメリカ合衆国、3国間の軍事同盟は2021年9月15日に発足)は中国への抑止力となる。自由と人権、民主主義と法の支配、と言う価値観を共有する国際的連携は日米同盟の深化を渦の中心として大きく拡大し始めている。

中東と日本を結ぶ=石油などのシーレーン

中東と日本を結ぶ=石油などのシーレーン

アメリカ国旗と兵士の画像


最近の投稿

使用済核燃料問題解決方法としてトリウム熔融塩炉に社会的スポットライトを!

8月18日、山口県熊毛郡上関の西町長は、町として使用済核燃料中間貯蔵施設の建設に向けた調査を受け入れる考えを表明した。原子力アレルギーが強い我が国にあって、町の財政事情や経済効果を考えた上での判断とはいえ勇断だと感じる。

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最近、世界中で次世代革新炉と呼ばれる小型原子炉の開発が進んでいる。昨年、ビル・ゲーツが共同設立したテラパワー社が進める原子力プロジェクトに三菱重工業と日本原子力研究機構が参画したことはニュースにもなった。

次世代革新炉の一つに熔融塩炉がある。米国オークリッジでは実験用溶融炉が1965-69年まで順調に運転した実績を持っている技術である。熔融塩炉という液体燃料が原子炉の中を流れるので、爆発することは原理的に考えにくい構造になっている。ウランに替えてトリウムを使うトリウム熔融塩炉は、単にプルトニウムを消滅するだけでなく、軽水炉よりも安全で低コストな発電を可能にする。実現すれば中間貯蔵問題を解決でき、安価なエネルギーを大量に安定供給してくれるという代物である。

将来的に核融合が実用化されるとしても、それまでは、使用済核燃料問題を解決しながら、安全、低コスト、安定した電力供給できる小型原子力発電の可能性を持つトリウム熔融塩炉に、一日も早く社会のスポットライトが当たることを願っている。  (季刊サラームNo36 2021年2月春季「第二の原子力時代の門を開くトリウム熔融塩炉」参照)

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  3. 中東情勢に新たな兆し コメントを残す
  4. 中東平和に寄与するトランプ政権となるよう期待 コメントを残す