脱石油政策の成功は中東平和に繋がる

トランプ新大統領はディール(取引)するビジネスマンというイメージが前面に押し出されてきた。そのため軍事・外交までディールとして取り扱われるのではないか、と危惧されている。しかし安倍首相との首脳会談では深い人間関係の構築に努力し、日本の軍事・外交に予想以上の理解と評価を示した。そしてアジア外交に対しても無難な滑り出しをなすことができたみなされる。

中東においてはどうであろうか。中東アラブ穏健諸国は、中東戦略に対して及び腰であったオバマ前大統領よりもトランプ大統領の方に期待を寄せている。オバマ前大統領より遙かにイスラエルよりだと思われるトランプ氏に対してである。

日本は日米同盟基軸の下イスラエルと軍事外交上友好関係の立場にあり、同時に原油輸入に依存して産業発展をなしてきたという立場は中東において2つの焦点を持っていたと見なすことができる。したがって日本の平和発展と、イスラエルとパレスチナ・アラブ諸国の平和共存とは一衣帯水の関係にあるといっても過言ではない。第一次オイルショックはその実例であった。つまりパレスチナ紛争解決や、ペルシャ湾危機回避は遠い中東の話ではないのである。

3月中旬、サウジアラビアのサルマン国王は4日間にわたり日本に滞在した。アラブ湾岸諸国を代表するサルマン国王の訪日を「脱石油政策」のためとすることは適切ではない。サウジ・湾岸諸国のお家の事情がそうであることは事実だが、経済格差を是正する政治的課題とその格差を温床に王制打倒を計るアルカイダ、IS等の過激派対策、さらにはイェメンの武闘反政府組織であるフーシ派とそれを支援するイラン問題があることを知らなければならない。イスラエルの中道右派といわれるネタニヤフ首相は中東和平問題解決に対して穏健アラブ諸国との協力もあり得ると語った。

日本は中東における2焦点外交のパラダイムから、一焦点外交への移行を模索し、穏健アラブ諸国の代表であるサルマン・サウジアラビア国王の期待に責任感を持った次元の高い政策を打ち出していくことが求められているのではないだろうか。

中東情勢に新たな兆し

トランプ政権の外交安保政策は注目に値する。2月15日、ホワイトハウスで行われたイスラエルのネタニヤフ首相との共同記者会見で、トランプ大統領は「停滞している中東和平交渉を仕切り直す」と表明した。米歴代政権が解決策としてきた「2国家共存」に固執しないと明言したのだ。これを受け、ネタニヤフ首相は「和平への重要な機会が、アラブ諸国を含む地域の働きかけから訪れる」と応じている。パレスチナ自治政府のアッバス議長とトランプ大統領との直接協議はまだ行われていないが、議長は黙して注視している模様だ。ロシアとイランに対するトランプ政権のスタンスはまだはっきり打ち出されていないものの、イランの核合意に批判的であったことに変わりはない。イスラム過激派に対しては容赦なく、「ISを殲滅する」とまで発言する新米政権にたいし、穏健派アラブ諸国は親米のよりを戻したい気分に向かうと予想される。ヨルダン、レバノン、サウジアラビア、エジプトの動きが注目される。MIKASA

中東平和に寄与するトランプ政権となるよう期待

トランプ大統領になって、中東政策も変わり始めましたね。オバマ前大統領が使わなかった「イスラム過激派」という表現を用いたり、イスラエル重視を明確に打ち出していますが、ビジネス以上に宗教が行動規範になっている地域だということ、また、共産主義勢力も狙っている地域であることを忘れないで、中東和平に寄与できる米国となることを期待しています。ピース

過激組織ISISの「イスラム国」樹立宣言後1年

ISISがカリフを押したて「イスラム国」の樹立宣言をなした2014年6月29日から1年が経過した。ラマダン(断食月)初日を期しての’樹立宣言’、ラマダン入り初の金曜礼拝でアブバクル・バグダディ自身が説教。イラク第2都市モスルのモスク金曜礼拝での’カリフ’登壇は、イスラム社会における鮮烈なデビューでありイスラム社会へ衝撃が走った。
欧米諸国は中近東地域の国境線が液状化するのではないか、との衝撃をうけた。
今年は、ラマダンに入って早々6月26日に3カ国での同時的多発テロが発生。3カ国のテロの関連については調査段階であるものの、ISが「ラマダン中に敵を攻撃して殉教せよ」とする音声声明をネット上に掲載していることから、ISの指示、あるいは影響を受けたものであることに間違いない。
過激派組織「イスラム国」に対する国際的包囲網の成果と今後の課題、と題して季刊サラーム15号が発行される。
(詳しくは15号発売時のサラーム会ホームページを参照)
上記のテロ事件を過小評価する者ではないが、うがった見方をすれば過激組織「イスラム国」はイラク内、シリア内での戦闘に精一杯で、戦闘員を外国に派遣する余裕はなかったのではなかろうか。加えて「イスラム国」外への一番の抜け道となっていたシリアとトルコの国境地帯の支配を失った事により、戦闘員の海外流出、海外からの流入は大幅に阻止されてしまったと思われる。
最近興味深い記事として「イラクやシリアで活動する過激組織イスラム国に加わった戦闘員を離脱させるため、元過激派のエジプト人男性がインターネット上で懸命の説得を続けている。試みが奏功し、既にエジプト人50人が同組織を離れ、帰国を果たしたという」(アレクサンドリアエジプト時事)を紹介している。(M)

池内恵教授Foresightに寄稿「イラク・モスルにカリフが姿を現す」

イスラム思想を専門とする東京大学先端科学技術研究センター准教授が国際情報サイト「Foresight(フォーサイト)」http://www.fsight.jp/27766に「イラク・モースルにカリフが姿を現す」と題して寄稿した。
ISISが「カリフを最高指導者とする政教一致のイスラム国家樹立を宣言」し、「イスラム国」の指導者アブバクル・バグダディ容疑者が「カリフ」に指名された、と報じられた(アルビル(イラク)時事)のはつい10日程前である。
この出来事は世界に衝撃をもたらした。折りしもウクライナでの内戦が回避される見通しに期待が高まるムードを打ち消すかのように、中東イラクでの内戦は不可避となるのではないか?との暗い予感を与える出来事だ。
池内准教授のForesightではアブバクル・バクダディの演説と人物、ISISの宣言した「イスラム国」の意味、アルカイダとの関係等について詳しく解説している。
是非上記ForesightのHPに訪問していただきたい。