クウェート独立50周年を心よりお祝い申し上げます。

クウェート独立50周年を心よりお祝い申し上げます。

flag2

 クウェートの国章には預言者ムハンマドの出自クライシュ族のシンボル、金色のハヤブサの翼の上に海洋に浮かぶダウ(Dhow)船が描かれています。

 アラビア半島の東側付け根に位置するクウェートはインド、ペルシャ(現在のイラン)からアラビア半島に下る中継地として、また湾岸地域からイラクのバスラ、バクダットへと向かう途上に位置する陸上交通の要所でした。同時にアラビア諸港、ペルシャとの沿岸貿易港として知られていました。

 クウェートが都市国家の体裁を整えた1752年以来、クウェート人の主要な経済活動は海に依存した漁業、天然真珠取り、さらにアラビア沿岸諸国間の海洋交易として発展します。ダウ船と呼ばれるクウェート独特の帆船は、製造技術はインドから伝わったとされていますが、クウェート人の独創的技術により改良され、多くの種類のダウ船が誕生しました。

 1900年代より沿岸貿易木造帆船としてダウ船は発展し、遠くインド、東アフリカにまで航海し、海洋貿易の主役となりました。1940年頃には200トン級のダウ船が150隻もクウェート湾を賑わせていました。

 しかし石油の発見により、大活躍したダウ船の船員も船長も石油関連の会社に就職し、船を動かす人がいなくなってしまいました。

ダウ船

 写真にあるダウ船ファティルカー(Fateh-el-Khair)は、1952年バスラのペルシャ人船長に売り渡され、ダウ船を中心とする海洋貿易の時代は終わりを告げました。

 1994年クウェート大学教授ハッジ(Hijji)博士は探していたファティルカーを発見しました。クウェート科学振興財団(KFAS)は直ちに買戻しを決定し、修復工事を行いました。復元されたファティルカーは2000年に完成したクウェートの科学センター(The Scientific Center Kuwait)に展示されています。

 一旦は他国へ売られてしまったものを買い戻してまで復元した理由は、クウェートの「海洋民族としての誇りと伝統を未来に残す」という気持ちの強い現れです。船名ファティルカーとは「幸運の始まり」の意だそうです。

 クウェートは湾岸諸国の中で最も進取の気性に富んでいるといわれています。かといって歴史と伝統を疎かにしているわけではないことが、そのことからも伺い知れます。3000年紀の出帆にあたりクウェート首長は「クウェートを金融と世界貿易のセンターにする」という目標を掲げ、巨額の開発計画を採択しました。

Dhow

 広大な砂漠をラクダに乗って移動する民族にとって、行くべき方向の道しるべとして星を頼りとしてきたと思われます。そこで培われた時代を予見する慧眼は、海を目指して移動し、定着してクウェート国を築き上げました。クウェートが掲げた新たな目標は、原点回帰に基づく目標のようにも感じられます。

 日本も現在にわかに海洋国家としての開国の歴史が回顧され、新時代に対応する海洋国家像が模索されています。

 クウェートと日本の、過去に増したる新たな絆が結ばれることを心より祈念いたします。

最近の投稿

脱石油政策の成功は中東平和に繋がる

トランプ新大統領はディール(取引)するビジネスマンというイメージが前面に押し出されてきた。そのため軍事・外交までディールとして取り扱われるのではないか、と危惧されている。しかし安倍首相との首脳会談では深い人間関係の構築に努力し、日本の軍事・外交に予想以上の理解と評価を示した。そしてアジア外交に対しても無難な滑り出しをなすことができたみなされる。

中東においてはどうであろうか。中東アラブ穏健諸国は、中東戦略に対して及び腰であったオバマ前大統領よりもトランプ大統領の方に期待を寄せている。オバマ前大統領より遙かにイスラエルよりだと思われるトランプ氏に対してである。

日本は日米同盟基軸の下イスラエルと軍事外交上友好関係の立場にあり、同時に原油輸入に依存して産業発展をなしてきたという立場は中東において2つの焦点を持っていたと見なすことができる。したがって日本の平和発展と、イスラエルとパレスチナ・アラブ諸国の平和共存とは一衣帯水の関係にあるといっても過言ではない。第一次オイルショックはその実例であった。つまりパレスチナ紛争解決や、ペルシャ湾危機回避は遠い中東の話ではないのである。

3月中旬、サウジアラビアのサルマン国王は4日間にわたり日本に滞在した。アラブ湾岸諸国を代表するサルマン国王の訪日を「脱石油政策」のためとすることは適切ではない。サウジ・湾岸諸国のお家の事情がそうであることは事実だが、経済格差を是正する政治的課題とその格差を温床に王制打倒を計るアルカイダ、IS等の過激派対策、さらにはイェメンの武闘反政府組織であるフーシ派とそれを支援するイラン問題があることを知らなければならない。イスラエルの中道右派といわれるネタニヤフ首相は中東和平問題解決に対して穏健アラブ諸国との協力もあり得ると語った。

日本は中東における2焦点外交のパラダイムから、一焦点外交への移行を模索し、穏健アラブ諸国の代表であるサルマン・サウジアラビア国王の期待に責任感を持った次元の高い政策を打ち出していくことが求められているのではないだろうか。

  1. 中東情勢に新たな兆し コメントを残す
  2. 中東平和に寄与するトランプ政権となるよう期待 コメントを残す
  3. 過激組織ISISの「イスラム国」樹立宣言後1年 コメントを残す
  4. 池内恵教授Foresightに寄稿「イラク・モスルにカリフが姿を現す」 コメントを残す