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eスポーツ元年となった2018年

NPO 法人サラーム会会長 小林育三

電子季刊紙 Salaam Quarterly Bulletin, 2019年2月, 春季号より


2026年第20回アジア競技大会の開催都市契約の締結及び大会会期の決定。署名後の様子(左から 竹田JOC会長、アハマドOCA会長、大村愛知県知事、河村名古屋市長)。2018年8月19日

2017年4月、①アジアオリンピック評議会(OCA)は2022年中国・杭州開催の「アジア競技大会」で“eスポーツ”を正式メダル種目とする事を発表した。昨年2018年第18回インドネシア・ジャカルタ大会ではデモンストレーション競技として“eスポーツ”が行なわれた。2026年第20回アジア競技大会は日本・愛知名古屋での開催が決定されている。

オリンピックでの正式種目としては2024年のパリ五輪、あるいは遅くとも2028年のアメリカ・ロスアンゼルス大会での正式種目として採用されることが有力視されている。

日本のeスポーツ3団体である、日本eスポーツ協会、e-sports促進機構、日本eスポーツ連盟は昨年2018年2月に合併し、日本eスポーツ連合(JeSU)を設立した。2018年は日本におけるeスポーツ元年であったと言えよう。


ゲームに対するマイナス・イメージの払拭

eスポーツとは「エレクトロニック・スポーツ」の略だ。ゲームの中から生まれたスポーツと言って良い。しかしゲームに対するマイナス・イメージを抱く者は少なくない。‘ゲーム自体が人の脳を壊す’‘壊れた脳を持った人は悪いことをしやすい’等。そのようなマイナス・イメージに対して日本大学大学院科学研究科泰羅雅登(たいら・まさと)教授は、「ゲーム全部をひっくるめた論調は適切でないしおかしい」と指摘。「実際のゲームは、反射神経を必要とするもの、主人公になって戦うもの、ロールプレイング、と色々あり、視覚と手以外は使わないゲーム、ゲームを介して会話するようなものは日常生活と同じような頭の使い方をゲームの中でもする。『鉄拳』のように自分では体を動かしていないもののあたかも動かしているような脳の使い方をするもの、と色々ある」と分析する。

「ただゲームは面白くできているので‘ハマる’という危険性はある」「大切なのは『ゲームとどうやってうまくつきあうか』というリテラシー(ゲームを理解し適切に活用)の問題だ」と説明している。根拠のないマイナス・イメージは払拭すべきだ。

eスポーツとして採用されるeゲーム

ゲームには古典的なボード、カードを使ったものから、ビデオゲーム(テレビゲーム)やパソコン(PC)ゲームというものがあるが、“eスポーツ”として採用されるものは、テレビゲームやコンピューター(PC)ゲームで使われているタイトル型ゲームソフトである。対戦型を主体にした格闘型パズルゲーム、サッカーや野球を中心としたスポーツゲーム、レーシングゲームそしてシューティングゲーム等が挙げられる。


Halo series by Microsoft

Street Fighter by Capcom

代表的なものには、「Halo」シリーズ(マイクロソフト)、「鉄拳」シリーズ(バンダイナムコ)、「バーチャファイター」シリーズ(セガ)、「ストリートファイター」シリーズ(カプコン)、「ウィニングイレブン」シリーズ(コナミ)、「グランツーリスモ」シリーズ(ポリフォニー)などがある。

 

特に格闘ゲームの「ストリートファイター」「鉄拳」などは、対戦型の代表作品として“eスポーツ”でも定番のゲームタイトルとなっている。(季刊サラーム第24号「中東で拡がる“eスポーツ”」より引用)

インドネシア・ジャカルタ・パレンバン大会での公開競技(デモンストレーション競技)は6種目


メダル授与式の後の相原選手(写真左)・杉村選手(写真右)(JeSUホームページより)

インドネシアで8月18日から9月2日にかけて開催された「第18回アジア競技大会(ASIAD2018)」ではeスポーツが公開競技として採用された。②種目は6種目

日本は一般社団法人日本eスポーツ連合(JeSU)が派遣したeスポーツの日本代表、杉村直紀選手(21)と相原翼選手(18)のチームがウイニングイレブン 2018部門において、イランを接戦の末下し金メダルを獲得した。

出口を見いだせない日本の現状オリンピックの正式種目として採用されるeスポーツの種目は?

2022年の中国・杭州アジアオリンピックで採用されるeスポーツの正式種目が何になるかについての関心もさることながら、それ以上に気になる事はその先のオリンピックでのeスポーツ正式種目だ。未だeスポーツがオリンピックに正式に採用されることが決まった訳ではないにもかかわらずその予想熱が高まっている。なぜなら今後のeスポーツとゲーム産業の方向に多大の影響を与えるからだ。

それに対するヒントはバッハIOC会長の次の発言だ。「暴力、殺人ゲームはダメ。オリンピック憲章にふさわしくない。」そこから推測できるのは、ズバリ、サッカーのウイニングイレブン、野球のパワプロゲーム。格闘技ゲームとしては鉄拳、ストリートファイターではないだろうか。

競技人口の拡がりと観戦文化の浸透

世界のeスポーツ競技人口は約5000万といわれ、インターネット鑑賞者は4億人と目される。中国、韓国に多く、ゲーム大国日本は立ち後れている感を免れない。eスポーツ競技者の実力は高く、その層も厚いにもかかわらず、国内でのeスポーツは盛り上がってこなかった。理由は日本国内ゲーム市場の特殊性が大きな要因だと言っていいだろう。家庭用ゲームや携帯ゲーム機が強く、eスポーツにはあまり向かないロールプレイングゲーム(RPG)やアクションゲームが根強い人気を持ってきたからだ。


「Shadowverse(シャドウバース)」(Cygames)の日本一決定戦、賞金総額1000万円の「RAGE Shadowverse Wonderland Dreams GRAND FINALS」を軸としたゲームイベント。RAGE Shadowverse Wonderland Dreams GRAND FINALS の会場(予想図、出所:CyberZ)

ここに来てにわかに状況が変わってきた。スマホゲームの普及でこうした状況は変わりつつある。常時ネット接続されている対戦型スマホカードゲーム、Shadowverseやクラッシュ・ロワイヤル(クラロワ)のような対戦型ゲームの人気が急上昇し、プレーヤーの総数も増大した。

昨年2018年11月15日読売新聞に「観戦文化徐々に浸透」という記事が掲載された。

「代表的なのはカードゲーム『シャドウバースShadowverse』や格闘ゲーム『ストリートファイター』など人気タイトルが行われる総合大会『RAGE(レイジ)』だ。2016年の初回の観客は150人だったが、今年9月の9回大会には約1万人が来場した」と報じている。

ゲームのプロ選手が多額の賞金を目指して戦い、その様子をイベント、動画で観戦する。CyberZの執行役員でありRAGEの総合プロデューサー大友真吾氏は「国内ではeスポーツを観たり楽しんだりする文化が未成熟。観戦文化を日本に根付かせたい」と述べている。

アジアオリンピック評議会のお膝元クウェートでのeスポーツ事情


3・11東日本大震災後日本支援のためにクウェートで開かれたe-スポーツ大会のポスター

サウジをはじめとする湾岸6カ国(サウジアラビア、アラブ首長国連邦、クウェート、オマーン、バーレーン、カタール)でeスポーツの振興を底堅く進めてきた国はクウェートだ。2011年東日本大震災の年、震災復興日本支援のためにeスポーツ大会を開催したヨセフ・アルロウミー氏は、10年前から日本の東京ゲームショウを訪れ、ビデオゲームショウ(eスポーツのイベント)を推進してきた。


写真右から2人目 Yousif Alroumi 氏、3人目 JeSU 理事株田実氏、左端はサラーム会会長小林育三氏。

2014年からは毎年GameExpoを開催し、観客動員を拡大し、昨年2018年の大会では14カ国からプロ・プレーヤーが参加し、22歳以上の観戦者が1000人を超えた。在Kuwait日本大使、日本領事も来場したそうだ。

昨年12月初旬の日本滞在中、当サラーム会との会合を持った。そこで興味深い話を聞くことができた。「現在の商務大臣はゲーム好きで、日本の麻生元首相と似ている。しかし政府関係者の多くはeスポーツに理解を示しながらも実戦を観戦したことがないのが大半だ。現実には食わず嫌いと言っても良い。今年の大会には政府関係者を招く予定だ」と語った。氏に依れば「ハイレベルのゲーム・プレーヤーは30人くらいいる。以前梅原大吾氏(うめはらだいご。日本のプロゲーマー。2D対戦型格闘ゲームの国際チャンピオン)とクウェートで対戦して勝った者もいる。しかしイスラム文化と習慣の中でゲームへの理解はまだまだでeスポーツの認知度も低い。それでもGameExpoを通しそのような風潮と戦ってきた。湾岸諸国の中で最も盛んな国だ。」と熱っぽく語った。クウェートと日本とは文化も人種も異なるが、eスポーツへの道のりには共通する課題を抱えていることを感じさせられた。

ヨセフ・アルロウミー氏と日本eスポーツ連合(JeSU)を訪問


写真右から2人目 Yousif Alroumi氏、3人目JeSU理事株田実氏、左端はサラーム会会長小林育三氏

2018年2月、日本eスポーツ連合(JeSU)が設立された。eスポーツ選手権大会やeスポーツ学生選手権を主催し、日本オリンピック委員会(JOC)への加盟を目指してきた日本eスポーツ協会とeスポーツ選手の待遇改善(プロ選手の報酬の高額化により選手育成・強化)を支援してきたe-sports促進機構とeスポーツ選手の意識向上、地位向上のためにプロライセンス制度を確立し大会の運営、審判やスタッフの育成、選手の教育プログラムの構築等の整備により国際オリンピック委員会(IOC)への加盟を目指してきた日本eスポーツ連盟のeスポーツ3団体が合併しての設立だ。

アジア競技大会やオリンピックへeスポーツ日本代表選手を送るためにはJeSUがJOCの加盟団体にならなければならない。日本のeスポーツ関連団体が一体化しそこにゲーム業界が全面的支援体制に入れば、オールeスポーツ、オール・ゲーム業界、さらにオール・ジャパンの体制を作り上げられる。そうなれば全ての課題は突破できると思われる。

2018年のJeSU誕生はその大きな一歩を踏み出したと言えるだろう。


脚注
①アジアオリンピック評議会(OCA)
(アジアオリンピックひょうぎかい、英:Olympic Council of Asia、略称:OCA)
アジア地域の国内オリンピック委員会(NOC)の集合組織。アジア競技大会等を主催している。本部はクウェート国のクウェート市に置かれている。現会長はクウェートのシェイク・アーマド・アル=サバーハ氏。モットーは「限りなき前進(Ever Onward)」。設立年1982本部はクウェートシティ。メンバー:45の国と地域。ウェブサイトocasia.org(フリー百科事典『ウィキペディア(Wikipedia)』より)

②種目は6種目
◇アリーナ・オブ・バラー(Arena of Valor=AOV)、◇クラッシュ・ロワイヤル(Clash Royale)、◇リーグ・オブ・レジェンド(League of Legends)、◇スター・クラフトII:レガシー・オブ・ザ・ボイド(StarCraft II: Legacy of the Void)、◇ハースストーン(Hearthstone)、◇プロ・エボリューション・サッカー2018(Pro Evolution Soccer=日本では「ウイニングイレブン2018」)の6種目。


記事の続きは、電子季刊紙 Salaam Quarterly Bulletin, 2019年2月, 春季号にて…


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