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ポンペオ演説の本気度その後

在米ジャーナリスト 山崎洋介

電子季刊紙 Salaam Quarterly Bulletin, 2020年11月, 冬季号より

カリフォルニア州のニクソン大統領図書館で演説したポンぺオ米国務長官(ポンぺオ氏ツイッターから)
カリフォルニア州のニクソン大統領図書館で演説したポンぺオ米国務長官(ポンぺオ氏ツイッターから)

ポンぺオ米国務長官は7月にカリフォルニア州で行った演説で、中国の経済発展を優先させる「関与政策」と完全に決別することを宣言し、長期にわたる米国の対中政策の方向性を示した。その中で、中国共産党政権がマルクス・レーニン主義に基づいた体制であると強調。米中対立の本質が「自由」対「共産」という価値観をめぐる戦いであるとの認識を明確にした。


米中対立を「自由」対「共産」という価値観の対立、とした流れ

トランプ政権は6月以降、高官による一連の演説で中国を厳しく非難するとともに、広範にわたる対中強硬策を次々と打ち出した。
ポンぺオ氏の演説に先立ち、6月下旬以降オブライエン大統領補佐官、レイ連邦捜査局(FBI)長官、バー司法長官が一連の対中批判演説を実施。それぞれ中国共産党のマルクス主義イデオロギー、スパイ活動、対外影響工作などを厳しく非難した。一昨年と昨年10月にはペンス副大統領も対中批判演説を展開しており、政権を挙げて政策転換の取り組みを続けてきた。 米国で中国との政治体制や思想の違いに焦点が当てられるようになったのは、中国武漢で発生した新型コロナウイルスのパンデミック(世界的大流行)が大きなきっかけだ。
 中国共産党政権は、国家権力によって新型コロナの危険を警告した医師に懲罰を加えるなど隠蔽を図った。その後も国際社会からの懸念を無視しウイグル族などへの弾圧を続け、6月には香港で反政府的な活動を取り締まる「香港国家安全法」の導入を強行。人権を軽視する共産党政権の本質を白日の下にさらした。

トランプ大統領の対中硬化

米ホワイトハウスで記者会見するトランプ大統領(ホワイトハウスHPから)
米ホワイトハウスで記者会見するトランプ大統領(ホワイトハウスHPから)

トランプ政権内ではタカ派が対中政策の主導権を握るようになった。不公正な貿易関係を是正するため中国との貿易協定を重視してきたトランプ大統領もコロナ問題で一時中国との断交の可能性に言及するなど、態度を硬化させている。
 トランプ政権はまた、テキサス州の中国総領事館閉鎖、南シナ海における中国領有権主張の否定、厚生長官の台湾訪問などの強硬策で中国への圧力を一層強めている。

2015年に撮影された旧在ヒューストン中国総領事館(ウキペディアから)
2015年に撮影された旧在ヒューストン中国総領事館(ウキペディアから)
 こうした中国への強硬姿勢は、単なる選挙対策に留まるものではない。ニューヨーク・タイムズ紙によると、政権内のタカ派は一連の強硬策によって、次期大統領選の結果に関わらず対中政策の「後戻りできない転換」を図ろうとしている、と伝える。更にトランプ氏は選挙に敗れる可能性も見据え、中国共産党との広範にわたる激しい対立を常態化させることが、タカ派の最終目的だという。

中国に厳しい米世論

米国人の対中感情は、66%が否定的な考えであると示したグラフ(Pew Reseach Center)
米国人の対中感情は、66%が否定的な考えであると示したグラフ(Pew Reseach Center)

中国に対する厳しい見方が有権者に広がっていることも、強硬策を後押ししている。  ピュー・リサーチ・センターが7月30日に発表した世論調査結果によると、73%が中国に悪い印象を持ち、2年前と比べ26ポイント上昇。習近平国家主席をほとんど、もしくは全く信頼していない人も77%に上った。
中国が新型コロナのパンデミックを引き起こしたことについてかなりの責任を負っていると考える人は78%。また、両国の経済関係に悪影響を及ぼしたとしても、米国は中国の人権状況の改善を促すべきでだと述べた人は73%だった。  中国による新型コロナ拡散の責任や人権侵害に対し米国民がより厳しい目を向けていることが、米政府の対中強硬姿勢の背景にある。

外交上の対中関与政策から中国脅威への転換は幅広く支持される

米国は1978年に中国と国交を樹立して以来、中国が経済発展することで、国内的にも民主化が進むという期待に基づいて関与政策を進めてきた。  しかし、中国は豊かになったにも関わらず、国内での統制は強まり、対外的にも米国を中心とした法の支配に基づく国際秩序を脅かすようになった。  さらに中国共産党が海外にいる中国人への監視を強め、米国の大学や研究機関、シンクタンク、メディア、政界などに浸透。多様な対外工作を展開している実態も浮き彫りになってきた。  こうした状況を受け、中国を外交上の最大の脅威として焦点を当てるべきだという考えは、米議会や外交関係者の間に、幅広い支持を集めている。

どちらが大統領になっても「米中関係は基本的価値観の対立」は継続

アンドリュー J. ネイサン
アンドリュー J. ネイサン

民主党大統領候補のバイデン前副大統領が大統領に就任したとしても強硬路線は概ね継続されるとの見方が強い。特にバイデン氏がウイグル人やチベット人への弾圧など中国の人権問題について厳しく対応する方針を示し、民主国家との連携を重視していることは注目に値する。
中国の政治・外交政策が専門のコロンビア大学のアンドリュー・ネイサン教授は9月下旬に発表した論考で「米中関係が基本的価値観の対立という意識は、バイデン政権が誕生したとしても弱まることはありそうにない」と指摘。その上で、「以前は米国の広範な中国政策の一分野にすぎなかった人権問題は、今では包括的な思想的対立の中心に位置するとほとんどの米国人や多くの中国人がみるようになった」と強調する。


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