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原油価格をめぐる状況

投資アナリスト 渡辺国栄(わたなべくにはる)

電子季刊紙 Salaam Quarterly Bulletin, 2019年8月, 秋季号より

OPECプラスの設立

7月2日、OPECはロシアなど非加盟産油国との間で生産調整で協力する緩やかな連合体「 OPECプラス」を設立することで合意した。同時に16年12月から続けている協調減産を 2020年まで維持することでも一致した。


(出所)BP,Statistical Review of World Energy 2012 をもとに作成

(出所)BP,Statistical Review of World Energy 2012 をもとに作成

OPECは、従来よりその影響力の低下を指摘されていた。世界の原油生産量に対して、 OPEC加盟国の生産量の比率は設立当時に比較して大きく低下しているのが最大の原因である。世界の原油生産量は1972年の3180万バレル/日から2018年にはおよそ8000万バレルと 43年間で2.5倍になっている。その中で、OPEC加盟国の生産量の比率は70年代の50%強か ら80年代には30%を割り込んだ。その後緩やかな回復を見せて、2010年代では、約42%程度となっている。特に、近年、アメリカでのシェール技術の開発により、アメリカが最大の 産油国となることで、世界の需給の構造が大きく変化している。そのような趨勢の中でロシア等との連合体「OPECプラス」の設立はある意味必然ともいえる。実際に、2014年から 2015年の原油価格急落時、(この時はアメリカのシェールオイルが原油価格急落の主な原因であった)OPECはロシアを巻き込んだ形での減産に合意することで、急落を食い止め、 その後原油価格は反転上昇することとなった。この事実は、OPECの生産調整が、現代においても原油価格の変動を抑制する上において尚有効であることを示していると同時に、ロシア等非加盟国の協力なくしてはこれも不可能であることも示している。


さて、原油価格はこのところ2014年のシェールオイルを原因とする急落時から見ると、緩やかな回復傾向にある。しかしながら、昨年末には70ドル台半ばから、一時50ドル割れまで急落するなど、時としてその乱高下は破壊的な様相を見せる。他のコモディティ(商品価格)と比較して原油価格のボラティリティ(変動幅)は大きい。原油価格に影響を与える各国の状況などをここで概観してみたい。



(注)1984 年までのロシアには、その他旧ソ連邦諸国を含む
(出所)BP,Statistical Review of World Energy 2012 をもとに作成

ロシア

ロシアはウクライナ問題に端を発した欧米の経済制裁により、経済的には非常に厳しい状況にある。ロシアは原油産出量世界第三位であり、原油価格はロシアの経済に大きな影響を与える。従って、OPECとの協調減産によって、原油価格の下支えを行うこと自体はロシアにとって大きな意味を持つ。しかしながら、欧米の経済制裁によりロシアの通貨ルーブルが大きく下落しており、ルーブル建てで見た原油価格は、現在最高値圏にある。ロシアの国内経済からみるとインフレの抑制が大きな課題であり、これ以上の原油価格の上昇は必ずしも望ましいものではない。今回は 減産の合意を見送り、増産に舵を切ることも選択肢としては考えられた。しかし、かつての大国としての存在感を示したいプーチン大統領は国際問題のいたるところで発言力を高めようとしており、アメリカに対抗する意味で今回はOPECとの協調という選択をしたのではないかという見方がある。

サウジアラビア

OPEC最大の産油国であり、産出量は世界第二位である。OPECにおいてはリーダー的立場であり、大きな影響力を持つ。昨年、サウジアラビアのジャーナリストである、カショギ氏の暗殺事件により、国際社会から大きな疑惑と批判の声が上がった。一方で、アメリカとの関係は良好であり、特にトランプ大統領となってからは蜜月とも云える関係で、アメリカからの武器の大量購入も行った。カショギ氏暗殺事件に対してもトランプ大統領はサウジアラビアを擁護する姿勢を見せる。

昨年、原油が緩やかに上昇している局面では、トランプ大統領がツイッターで「原油価格が高すぎる」、「OPECに増産を希望する」と発言するなどがあり、サウジアラビアは、「イラン産原油禁輸措置による減産分の穴埋めする用意がある」と答え、その後、原油価格が急落した。カショギ氏暗殺事件を不問にするかわりにアメリカとサウジに増産の密約があったのではないかという見方があったのだが、憶測の域を出ない。いずれにしろ、OPECにおけるリーダーとしてサウジアラビアの役割は大きい。

イラン

原油産出量は世界第六位である。2015年、米英独仏中露との間で核合意が成立し、それまで行われていた経済制裁が解除された。ところが、アメリカはトランプ政権となり、オバマ政権下で成立させた核合意が不十分であるとして、他国の批判と説得にもかかわらず、イランとの核合意からの離脱を宣言した。アメリカによる独自制裁が再発動されることとなったが、これは主にイラン産原油の輸入禁止が主な内容であり、日本などの同盟国にも同調を課するものであった。昨年11月から実施される予定であったが、日本などは半年間適用除外することが決定された。この適用除外措置が原油価格が急落する一因ともなった。今年5月からは適用除外措置が撤廃されているが、これが原油価格上昇要因となっている。直近ではアメリカの無人偵察機撃墜事件が発生するなど、アメリカとイランとの緊張関係が急速に高まっており、波乱要因となっている。我が国もホルムズ海峡でタンカーが襲われることにより、改めてエネルギーにおける中東地域の安定の重要性を意識させられることとなった。アメリカとイランとの軍事衝突という事態となれば、原油価格は急騰することが想定される。

アメリカ

シェールオイルの産出により現在、世界最大の原油産出量となっている。同時にアメリカは 原油の輸入国から輸出国へと転換し、世界の原油の需給構造が大きく変化することになった。

シェールオイルの産出コストは当初50~60ドルではないかと言われており、原油価格がこれを上回れば、シェールオイルは増産されることが想定され、原油価格の上昇を抑制する効果がある。一方、OPECが減産してもシェールオイルが増産すれば、その効果は限定され、 OPECの影響力低下の一因となっている。原油の輸出国でありながら、トランプ大統領は原油の低下を希望しており、ツイッターでの投稿で、原油価格を急落させるなど影響力を持つ。多くは自分の選挙戦略とみられており、原油価格は国民の生活に直結しており、原油価格の上昇は再選に向けて不利に働く要因と考えられている。また、トランプ大統領が始めた米中貿易戦争は現在の世界経済において最大の懸念事項となっている。世界第一位と二位の 経済大国同士の貿易戦争が世界経済に与える影響は甚大であり、過熱することで世界経済は大きく減速する。経済の減速は、原油の需要が減少することで原油価格下落の要因となる。

原油価格の持つ多面性

原油はエネルギーとして現代の社会においては必要不可欠なコモディティであるのは言うまでもないが、単純にそれだけではない側面がある。すなわち、原油価格はひとつの金融商品として現代の複雑な金融市場に組み込まれているという面も持っている。ヘッジファンドなどによる巨額のマネーの投資対象であり原油価格はその需給だけではなく、金利や株価などにも影響を受ける。時にはそれらと非常に多岐な連動性をもって価格が動くことが確認されている。また、サウジアラビアなどの政府系ヘッジファンドは原油によって得た巨額のオイルマネーを世界中に投資しており、原油価格が急落すれば、オイルマネーが逆流することで株価の下落につながる。

まとめ

そういう中で、世界経済はアメリカが好調を維持しているものの、米中の貿易戦争は各国に深刻な影響を与えており、アメリカ自体にもその影響は広がって行くことは必然である。

世界経済は米中の貿易戦争以外にも数多くの不透明要因を抱えている。トランプ大統領の予測不能な言動、時にはツイッターで一言呟くことで世界に激震が走るが、それも大きな不透明要因である。直近でも、アメリカのみならず、世界経済に大きな影響力を持つアメリカFRBの金融政策について露骨に干渉し、議長の解任にまで言及するなど今までの大統領が行ったことのないことである。

さまざまな不透明要因を折り込みながら、しばらくは原油価格は50~70$で上下を繰り返しながらのレンジ相場が続くことが想定される。但し、世界経済に何らかのクラッシュが生じれば下限を、イランとの軍事衝突等が起これば上限をブレークして暴走することになる。

記事の続きは、電子季刊紙 Salaam Quarterly Bulletin, 2019年8月, 秋季号にて…


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